この記事を書いた人
・灯心堂漢方薬局 薬局長
・薬剤師歴10年以上
・店舗のLINE登録者数2000人以上
・漢方を通して、皆様が少しでも健康に過ごせる手助けをできればと思います。>>プロフィール記事はこちら
西山光です


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「最近お酒が弱くなった」「飲んだ翌日の疲れが抜けない」「酔うと気が大きくなって家族にあたってしまう」——40代〜50代の男性から、こうしたお悩みを聞くことが増えました。
これらは単なる加齢による変化ではなく、男性更年期障害とアルコールの関係が深く影響している可能性があります。
結論からお伝えすると、過度な飲酒は男性更年期の症状を悪化させます。そして逆に、男性更年期のつらさから飲酒量が増えてしまう方も少なくありません。
この悪循環を断ち切るために、漢方と薬膳の視点からできることをお伝えします。
男性更年期障害の根本的な原因は、テストステロン(男性ホルモン)の低下です。
アルコールは、このテストステロンの産生に直接的な悪影響を与えます。
アルコールを摂取すると、精巣でのテストステロン合成が抑制されることが研究で示されています(→参考文献) とくに大量飲酒や連日の飲酒は、テストステロン値を持続的に下げる要因になります。
加齢によって自然にテストステロンが低下しているところに、飲酒による低下が上乗せされるため、「40代までは平気だったのに、50代になって急にお酒でしんどくなった」という変化が起こりやすいのです。
「寝酒」の習慣がある方は多いですが、アルコールは睡眠の質を著しく低下させます。
アルコールは入眠を早める効果がある一方で、深い睡眠(徐波睡眠)を減少させ、夜中に目が覚めやすくなります。テストステロンは主に深い睡眠中に分泌されるため、飲酒による睡眠の浅さは、ホルモン産生をさらに妨げることになります。
男性更年期で不眠に悩む方が寝酒に頼ると、「睡眠の質が下がる→テストステロンが減る→更年期の症状が悪化する→さらに眠れなくなる」という悪循環に陥りやすいのです。
テストステロンの代謝には肝臓が関わっています。アルコールの解毒で肝臓に負担がかかると、ホルモンの代謝バランスが乱れ、相対的にエストロゲン(女性ホルモン)の比率が高まることがあります。
内臓脂肪の増加もエストロゲンの増加に関わります。飲酒に伴うおつまみの過食や、ビール腹に代表される内臓脂肪型の肥満は、男性更年期の症状を間接的に悪化させる要因です。
漢方では、過度な飲酒が体に与える影響を「肝」と「腎」の二つの臓腑への負担として捉えます。
漢方の「肝」は、気のめぐりを調整し、感情をコントロールする臓腑です(西洋医学の肝臓とは異なる概念ですが、関連はあります)。
飲酒の過多は、漢方的に「湿熱(しつねつ)」を生みます。湿熱とは、余分な水分と熱が体内にこもった状態です。湿熱が肝に影響すると、気のめぐりが乱れ、以下のような症状が出やすくなります。
イライラや怒りっぽさの悪化、口の苦み・口臭、目の充血、胸脇部の張りや不快感、二日酔いの頭痛・吐き気。
つまり、男性更年期のイライラや精神症状がある方が飲酒を続けると、「肝」の湿熱でさらに症状が増幅される危険があるのです。
漢方の「腎」は、生命力の根本を司る臓腑で、男性更年期の根本に関わる臓腑です。
過度なアルコールは「腎精」を消耗すると考えられています。腎精とは、成長・発育・生殖・老化を支えるエネルギーのようなものです。もともと加齢で腎精が減っているところに、飲酒の負担が加わると、腎虚(腎の力の衰え)が加速します。
足腰のだるさ、頻尿、性欲低下、耳鳴り、物忘れといった腎虚の症状が、飲酒習慣のある方で強く出やすいのは、このためです。



ここまで読むと「もうお酒は一切飲めないのか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
適度な飲酒(ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度)であれば、ストレスの発散になり、気のめぐりを助ける面もあります。
漢方でも、少量のお酒は「活血(血のめぐりを良くする)」の働きがあると考えます。
問題は量と頻度です。以下のポイントを意識してみてください。
週に2日以上の休肝日を設ける:肝臓と腎の回復時間を確保することが大切です。毎日飲む習慣がある方は、まず週2日の休肝日から始めてみてください。
寝酒を避ける:睡眠の質を守るために、就寝の3時間前までに飲み終えるのが理想です。不眠の対策は飲酒ではなく、別の方法(後述の養生法や漢方薬)で対応しましょう。
空腹で飲まない:空腹時の飲酒はアルコールの吸収が速く、肝臓への負担が大きくなります。
おつまみの内容を意識する:揚げ物や塩辛いものは「湿熱」を悪化させます。後述する薬膳の考え方を取り入れて、肝と腎を養うおつまみを選びましょう。
「お酒が体に悪いなら、養命酒なら薬だからいいのでは?」というご質問をいただくことがあります。
養命酒は14種類の生薬をみりんに浸けて抽出した薬酒(第2類医薬品)で、肉桂、地黄、杜仲、淫羊藿(インヨウカク)など、補腎に関わる生薬も含まれています。少量ずつ毎日飲むことで、冷え・疲れ・食欲不振などの改善を目指す製品です。
養命酒のアルコール度数は14度(ワインと同程度)で、1回の服用量は20mLと少量です。この量であれば肝臓への負担は軽微であり、体を温めたい冷えタイプの方には一定の効果が期待できます。
ただし、ほてりや寝汗が強い方(腎陰虚タイプ)には、温める生薬が逆効果になる場合もあります。



飲酒習慣がある男性更年期の方には、「男性更年期の体質改善」と「飲酒の負担を軽減する」を並行して進めるアプローチが効果的です。
肝胆の湿熱を除く代表的な処方です。口が苦い、尿が濃い、体が重だるいといった湿熱の症状が強い方に適しています。飲酒後の体調不良が続く方に短期的に用いることがあります。



漢方には「薬食同源」——薬と食べ物は同じ源であるという考え方があります。毎日の食事を少し意識するだけで、男性更年期の改善を後押しできます。
飲酒で負担がかかった「肝」を整える食材をご紹介します。
しじみ:肝の解毒を助ける食材として古くから知られています。しじみの味噌汁は、飲酒翌日の養生としても理にかなっています。
クコの実(ゴジベリー):漢方で「枸杞子」として知られ、肝と腎の両方を養う生薬でもあります。スープやお粥に数粒加えるだけで手軽に取り入れられます。
緑の濃い野菜:漢方では「青(緑)は肝に入る」と考えます。ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、春菊などの緑黄色野菜を日常的に取りましょう。
柑橘類:みかん、グレープフルーツ、レモンなど。柑橘類の香りには気のめぐりをよくする「理気」の作用があり、肝の気滞を和らげます。
男性更年期の根本にある「腎虚」を食事からケアする食材です。
黒い食材:黒ごま、黒豆、黒米、黒きくらげ、海藻類。漢方では「黒は腎に入る」と考えます。主食に黒米を混ぜたり、黒ごまをかけるだけでも日常的に取り入れやすい方法です。
くるみ:漢方で「胡桃肉」として補腎薬にも使われる食材です。1日5〜6粒を目安に。間食やサラダのトッピングとして手軽に取り入れられます。
山芋(長芋):漢方で「山薬」として八味地黄丸にも配合される生薬です。腎と脾(胃腸)の両方を補います。とろろご飯は手軽で続けやすい薬膳です。
エビ:体を温めながら腎を補う食材です。冷えを伴う腎虚タイプの方にとくにおすすめです。
牡蠣(かき):亜鉛の含有量が食材中トップクラスです。亜鉛はテストステロンの合成に必要なミネラルであり、男性更年期の食事療法では欠かせない栄養素です。
食事から意識して摂りたい栄養素をまとめます。
亜鉛:テストステロン合成に不可欠なミネラル。牡蠣、牛肉、豚レバー、ナッツ類に多く含まれます。飲酒は体内の亜鉛消費を増やすため、飲酒習慣のある方はとくに意識して摂取してください。
ビタミンD:テストステロンとの関連が研究で示されています。日光浴で体内合成されますが、室内での仕事が多い方は不足しがちです。きのこ類、鮭、卵黄に含まれます。
良質なたんぱく質:筋肉の維持とテストステロンの産生を支えます。鶏肉、魚、大豆製品、卵をバランスよく。
飲酒を完全にやめるのが難しい方は、まずおつまみの見直しから始めてみてください。
おすすめのおつまみ:枝豆(大豆イソフラボン+たんぱく質)、焼き魚(良質な脂肪酸+ビタミンD)、牡蠣のポン酢(亜鉛)、くるみやアーモンド(亜鉛+マグネシウム)、冷奴やぬか漬け(大豆たんぱく+発酵食品)
控えたいおつまみ:揚げ物(湿熱を助長)、味の濃い加工肉(塩分過多)、締めのラーメンや丼物(内臓脂肪の増加)
おつまみの質を変えるだけで、飲酒による肝・腎への負担を軽減できます。
「禁酒すれば男性更年期は治りますか?」というご質問も受けます。
禁酒はテストステロンの回復にプラスに働きますが、男性更年期の原因は飲酒だけではありません。加齢による自然なホルモン低下、ストレス、睡眠不足、運動不足など複数の要因が絡み合っています。
ですから「禁酒すれば治る」とは言い切れませんが、「禁酒すれば改善しやすくなる」のは確かです。とくに漢方薬の効果は、飲酒を控えることで格段に出やすくなります。補腎薬で腎の力を補っても、毎日の飲酒で消耗し続ければ効果は限定的です。
漢方薬+飲酒量の見直し+食事の改善——この3つを組み合わせることで、体質改善の効果が加速します。
男性更年期の時期に体重の変化を感じる方も多いです。
太る場合:テストステロンの低下により筋肉量が減り、基礎代謝が落ちます。そこに飲酒のカロリーと、おつまみの過食が加わると、内臓脂肪型の肥満に傾きやすくなります。内臓脂肪からはエストロゲンが産生されるため、テストステロンとのバランスがさらに崩れるという悪循環です。
体重が減る場合:気虚(エネルギー不足)が強い方は、食欲低下や消化吸収力の低下から体重が減ることがあります。飲酒で胃腸がさらに弱ると、栄養不足が深刻化します。
いずれの場合も、飲酒量のコントロールと食事の質の改善が基本になります。
営業職で接待が多く、プライベートでも毎晩ビール2〜3本の晩酌が習慣でした。50歳を過ぎてから倦怠感、朝の起き上がりのつらさ、寝汗、イライラが強くなり、泌尿器科でテストステロン低下を指摘されました。
体質を拝見すると、舌に黄色い苔があり、口の苦み、胸脇部の張り、便のべたつきがあり、「湿熱」が強い腎虚タイプでした。まず湿熱を除く生薬を加えた漢方薬をお渡しし、同時に週3日の休肝日をお願いしました。
1ヶ月半で舌の苔が薄くなり、朝の目覚めが改善。3ヶ月後には補腎の比率を高めた処方に切り替え、半年後には「飲酒量が自然と減り、2本飲んでいたのが1本で満足するようになった」とのことでした。
管理職のストレスから寝つきが悪くなり、毎晩ウイスキーを飲んで寝る習慣がついていました。しかし夜中に目が覚め、翌日は倦怠感で仕事に集中できないという悪循環を繰り返していました。
気滞(ストレスによる気の停滞)と腎陰虚(ほてり・寝汗のある腎虚)が重なっている状態と判断しました。気を巡らせるをベースに、陰を補い安眠を助ける生薬を加えた処方をご提案し、寝酒に代わる入眠法(入浴時間の調整、呼吸法)もお伝えしました。
2週間ほどで寝つきに変化を感じ始め、1ヶ月後には寝酒なしでも眠れる夜が週の半分以上に。3ヶ月後にはほぼ毎日寝酒なしで入眠できるようになり、日中の集中力も戻ったとお喜びいただきました。
過度な飲酒は、テストステロンの産生低下、睡眠の質の悪化、肝臓への負担という3つのルートから男性更年期の症状を悪化させます。漢方の視点でも、飲酒は「肝」に湿熱を生み、「腎」の精を消耗する要因です。
ただし、禁酒がすべてではありません。飲酒量のコントロール、食事の質の改善、そして体質に合った漢方薬——この3つを組み合わせることが、男性更年期を乗り越えるための現実的なアプローチです。
お酒との付き合い方を見直したい方、飲酒習慣がある中で漢方を始めたい方は、お気軽にご相談ください。
当店では、飲酒習慣を含めた生活全体を踏まえた漢方相談を行っています。
「お酒をやめるべきか悩んでいる」「飲酒の影響で漢方薬が効きにくいのではないか」「食事や養生も含めてトータルでアドバイスが欲しい」——そうした方のために、体質と生活スタイルの両面から、無理なく続けられるご提案をしています。
LINEでの事前ヒアリングからスタートできます。お気軽にお問い合わせください。















