この記事を書いた人
・灯心堂漢方薬局 薬局長
・薬剤師歴10年以上
・店舗のLINE登録者数1000人以上
・漢方を通して、皆様が少しでも健康に過ごせる手助けをできればと思います。>>プロフィール記事はこちら
西山光です
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このブログを読むことで、切れ痔になりにくい漢方目線での食事、生活習慣について知ることができます。排便時に痛みで悩まないようになればと思います。
切れ痔の原因は「便秘」とよく目にします。では、便秘の人、全員が切れ痔になるのでしょうか?
便秘の人、全員が切れ痔にならないですよね。
便秘があっても切れ痔になる人、切れ痔にならない人がいます。
切れ痔になる人と、切れ痔にならない人の違いは何でしょうか?それは「気滞」の体質です!
漢方でみると、切れ痔の原因の多くは「気滞」といえます。「気滞」とは気の巡りが悪い状態のことです。
生理前に切れ痔になったり、産後から切れ痔になったりするのも「気滞」が原因です。
このブログでは切れ痔と、切れ痔になりやすい体質について説明しています。また漢方で考える切れ痔になりにくい食事や生活習慣についても説明しています。最後には実際の相談事例についても記載しています。
痔とは、肛門周辺に生じる疾患の総称です。
痔といっても、いぼ痔(内痔核・外痔核)、切れ痔(裂肛)、あな痔(痔ろう・痔瘻)があります。
痔とひとくくりに言っても、いぼ痔、切れ痔、あな痔で病態も異なり、つかう漢方薬も異なります。
このブログでは切れ痔について解説しています。
この後に切れ痔について解説していくのですが、その前に排便の仕組みについて解説します。
排便には内肛門括約筋と外肛門括約筋が関わっています。
内肛門括約筋は自律神経の働きによって動いています。自分で意識的に筋肉を動かすのではなく、身体が自律的に動き、排便を助けてくれます。
外肛門括約筋は体性神経の働きによって動いています。自分で筋肉の動きをコントロールすることができ、便意を我慢することもできます。
内肛門括約筋と外肛門括約筋の協同によって、便を追い出し、排便することができます。
切れ痔は肛門上皮に生じた亀裂、びらん、潰瘍の総称のことです。
簡単にいえば、肛門の皮膚が切れた状態のこと。
紙で指を切ってしまった経験はありませんか?紙で生じた傷は小さくても、痛みはとても強いですよね。
同じように、肛門にできた傷は小さくでも痛みは強烈です。
切れ痔の傷ははじめは小さくも何度も繰り返すことで潰瘍になり、皮膚が盛り上がるとポリープになり、肛門狭窄にもつながっていきます。
切れ痔でお悩みの方はまずは病院の受診をしてください。
切れ痔の主な原因は肛門括約筋が過度に緊張しているためです。
肛門括約筋が緊張し、排便がスムーズにできないため、固い便が通過するときに皮膚が裂けて、切れ痔となります。
便秘でなくても、下痢の勢いで肛門の皮膚が裂けることでも生じることもあります。
ほかにも血液の循環が悪いことで生じるともいわれています。
説としては、肛門上皮損傷説と肛門上皮虚血説があります。
切れ痔は肛門の皮膚が裂けた状態のことです。いぼ痔は、静脈がうっ血してできた、いぼ状の腫れのことです。
イメージとしては切れ痔は切り傷で、いぼ痔は腫れて、いぼ状になっています。
切れ痔といぼ痔とでは出血の違いが特徴的です。
紙で指を切ったとき、出血量はにじむような少量しかみられません。切れ痔も同じように、皮膚が切れて出血するので出血量は多くありません。お尻をふいたときに少量の血がついていることがあります。
いぼ痔は静脈が腫れて、こぶ状になっています。いぼ痔が出血するということは、静脈が出血しているようなものです。いぼ痔の出血は量が多く、びっくりされる方もいます。
便器が真っ赤になるくらい出血するのは、切れ痔ではなく、いぼ痔の出血です。
血便に気づいたとき、どういったことを想像しますか?
一般的に、痔が原因の出血は鮮やかな赤い色をしています。痔は肛門周囲の疾患のため、出血も真っ赤な色になります。
肛門から奥にある結腸から出血すると血と便が混ざり、黒い色の血便になります。肛門に近い直腸の出血であれば、赤い血便になります。
腸から出血がみられる疾患には潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸癌などがあります。
血便がみられたときは大きな病気が隠れている可能性があるため、血の色に関わらず、必ず病院を受診してください。
外用薬としては、座薬や軟膏で炎症を抑えていきます。内服薬としては、便をやわらかくする薬、下剤、整腸剤で排便をコントロールします。
海外では括約筋を弛緩する薬が使われることもあります。
切れ痔(裂肛)を漢方の目線で考えていきましょう。
肛門括約筋が過度に緊張しているため、固い便がスムーズに流れず、皮膚が切れ、切れ痔となります。
過度に筋肉が緊張していることは漢方では「気滞」の状態といえます。
「気」には筋肉を滞りなく、スムーズに動かす働きがあります。「気」のめぐりが悪くなると、筋肉をスムーズに動かせず、過度な緊張を引き起こします。
想像してください。学校や仕事で、大勢の人の前で発表した経験はありませんか?発表直前、心臓はドクンドクンと脈を打ち、緊張してくると手に力が入り、肩もこわばってきます。
人の体は心が緊張すると、身体も緊張して、力が入ります。「気滞」の状態というのは心の緊張・身体の緊張を起こしやすい状態のことです。
「気滞」が常にある方は「気滞」体質といえます。
切れ痔になりやすい人は、肛門括約筋に緊張を生じやすい「気滞」体質といえます。
緊張の原因となる「気滞」をめぐらせることで、過度な緊張は緩み、肛門括約筋もスムーズに動くようになります。
切れ痔になりやすい方は「気滞」を解消することで、切れ痔になりにくくなります。
切れ痔は「気滞」が原因と説明しました。
つまり切れ痔を慢性的に繰り替えすのは、「気滞」の体質が改善していないためです。
体質が改善していなければ、切れ痔を何度も繰り返してしまいます。
切れ痔が自然治癒し、切れ痔になりにくくなった方は、年齢や環境、季節の変化によって体質も変化していったためと考えられます。
生理前に切れ痔になって、お悩みの方も多いと思います。
生理前と切れ痔の関係も漢方で説明できます。
簡単にいえば、生理前は「気」の巡りが悪くなります。
生理前にみられる症状にいらいら、抑うつ、胸の張り、便秘、下痢などがあります。
すべての症状が「気滞」と関係しています。
〇生理前の気滞の影響
・メンタルに影響がでるとイライラ・抑うつ
・腸の方へ悪さをすると便秘・下痢
・胸の周りの経絡を邪魔すると胸の張り
すべて、「気滞」が原因です!
生理前の「気滞」によって、肛門括約筋も過度に緊張してしまい、切れ痔になってしまいます。
生理前に切れ痔になりやすいのは、生理前に「気滞」が生じやすいためといえます。
産後に切れ痔になりやすいことも漢方で説明できます。
胎児を身体に宿し、出産するのは「気血」を大量に必要とします。つまり産後は「気血」を大量に消耗した状態といえます。
例えば産後の症状の1つ、脱毛がみられるのは漢方では「血虚」の状態といえます。
漢方での「血」は栄養と潤いの働きがあり、髪・爪・肌・筋肉を艶やかに潤してくれます。
「血」は潤す働きがあるため、「血虚」になると腸が乾燥しやすく、便秘になります。
また産後は育児に対する不安やプレッシャー、環境の変化のストレスによって「気滞」が生じます。
「気滞」があることで、腸の動きが悪くなり、便秘になり、肛門括約筋も過度に緊張し、切れ痔になります。
産後は「血虚」によって、ただでさえ便秘になりやすいところに、「気滞」があわさることで切れ痔になりやすいのです。
産後の場合は、まずは出産で消耗した「気血」を補い、そこに「気滞」を巡らせる漢方薬をあわせていきます。
妊娠中・授乳中は、痔の漢方薬の乙字湯はつかえません!乙字湯に入っている、大黄の成分は母乳を通して、赤ちゃんが摂取してしまい、赤ちゃんが下痢していまいます。授乳中・妊娠中は乙字湯は禁忌です。
西洋医学では便秘の要因として、機能性便秘、器質性便秘、症候性便秘、薬剤性便秘があります。
漢方でも便秘にはいくつか種類があります。
漢方での便秘の要因
・気滞
・陰虚
・気虚
「気滞」は気の巡りが悪い状態です。「気」とは身体の機能のことです。つまり「気滞」は身体の機能に滞りがある状態のこと。
「気滞」によって、腸の機能に滞りがあれば便秘になります。また切れ痔の原因も「気滞」です。
漢方で考えると、切れ痔も便秘もどちらも原因は「気滞」です。
切れ痔も便秘の原因も「気滞」体質!
切れ痔の方に便秘が多いのは、漢方では「気滞」が原因のため、当然といえます。
しかし、便秘でも切れ痔にならない方もいます。それは便秘の原因が「気滞」ではなく、別の体質のためです。
便秘でも切れ痔になる人、切れ痔にならない人がいるのは体質の違いといえます。
次に「気滞」以外の、便秘の原因について説明します。
「陰虚」で腸の潤いが不足すると、便が硬くなり、便秘になります。
年齢を重ねると、身体の水分量がどんどん少なくなっていきます。「陰虚」の便秘はご年配の方に多くみられます。
「陰虚」の便秘は切れ痔になりにくいといえます。
「気虚」で身体の機能が低下し、排便する力もなくなり、便秘になります。排便するだけの元気がないのです。
身体の機能が低下した状態のため、気を補う漢方薬をつかうことで、腸の動きも元気がでるようになります。
「気虚」の便秘は切れ痔になりにくいといえます。
切れ痔につかう漢方薬の代表的なものは乙字湯です。
乙字湯の効能効果:「体力中等度以上で、大便がかたく、便秘傾向のあるものの次の諸症:痔核(いぼ痔)、きれ痔、便秘、軽度の脱肛」
乙字湯は当帰・柴胡・黄芩・大黄・升麻・甘草から構成されています。
柴胡:気を巡らせ、肛門括約筋の動きをスムーズにする
当帰:血の巡りを良くする
黄芩:炎症を抑える
升麻:脱肛の場合、上へ引っ張り上げる
大黄:便通を良くする
乙字湯は気を巡らせつつ、炎症を抑え、便通を改善することで、切れ痔、いぼ痔にも効能効果があります。
乙字湯は大黄が入っているため、妊娠中・授乳中は禁忌です。
乙字湯が切れ痔に効かない理由は、乙字湯だけでは「気滞」の生薬が少ないためです。場合によっては漢方薬をあわせることも必要です。
当薬局に相談に来られる方は、乙字湯を服用しても効かないという方ばかりです。
切れ痔の原因は「気滞」といっていますが、乙字湯の「気滞」に対応した生薬は柴胡の1つです。
「気滞」といっても、人によって程度が異なります。人によって、漢方薬を使い分けます。
「気滞」と同時に、「血虚」「陰虚」の体質の方もおり、潤いの対応も必要なことがあります。
切れ痔の主な原因は「気滞」ですが、人にって体質は異なり、おすすめする漢方薬も異なります。
排便時に痛みのない生活を送るためにも切れ痔でお悩みの方はぜひご相談ください。
最後には実際の相談の事例もあります。
漢方の目線で考えると、切れ痔の原因となる「気滞」を解消するためには香りの良い食べ物が大切です。
香りは「気」をめぐらせる働きがあります。
食べ物としては、シソ・春菊・セロリ・バジル・パクチー、飲み物としてはジャスミンティーがおすすめです。
便秘解消にいい食べ物はナッツ類です。ナッツ類は油分を多く含み、便を潤します。便秘でお悩みの方はヘンプシードがとくにおすすめです。
香りがいい食べ物で「気滞」を解消し、ナッツ類で便秘を解消しましょう。
漢方の目線で考えると、「気」を巡らせることが重要です。ストレスを発散するときと同じように、運動、ストレッチ、カラオケがいいでしょう。
身体を動かすことで「気」もめぐっていきます。
とくに意識することは「肺」をつかうことです。
漢方では「肺」が「気」を全身に行き渡らせる働きがあります。
カラオケで大声を出すだけで、気分がすっきりしませんか?それは「肺」をつかうことで、「気」が全身にめぐっていくためです。
一番簡単なことは「深呼吸」をすることです。深く息をすることは「肺」をつかいます。
漢方では「肺」と「大腸」が表裏の関係です。「肺」をつかうことは「大腸」の巡りも改善します。
実際に、深呼吸をすることは便秘解消に良いといわれています。
・息を深く吸うと横隔膜が下がり、腸を刺激する
・呼吸をするときに腹筋に力が入る
・リラックスして、副交感神経が優位になり、腸の蠕動運動が活発になる
切れ痔でお悩みの方はしっかり「肺」をつかいましょう。まずは深呼吸でもいいので始めてみてください。
漢方で考えると、切れ痔の予防にはシソ・春菊などの香味野菜を食べること、日常生活ではストレスを溜めないこと、しっかり「肺」をつかうことが重要です。
・香味野菜、ジャスミンティーなど香りのいい食べ物を積極的に摂取すること
・ストレスを溜めないようにすること
・軽い運動、深呼吸でもいいので、「肺」をしっかり使うこと
40代女性。産後から切れ痔が治らない。乙字湯を服用しているが、それでも時々切れ痔になる。マグミットも服用しているが、すっきり便がでない。冷え性だが、表面は火照る。貧血気味。
産後はどうしても気血が不足しがちになります。
産後でも栄養を摂取し、気血が回復すればいいのですが、回復できないと気血不足が長引きます。
産後は不安やプレッシャー、環境の変化から気のめぐりが悪くなります。
気血不足と、気滞から切れ痔になりやすくなります。
この方の場合は、気血を補うことと、気を巡らせることが必要だと考えました。
・気血と潤いを与える漢方薬
・気を巡らせる漢方薬
2つの漢方薬を併用していただきました。
すると翌月から「調子が良くなりました!切れ痔が全くのゼロではないですが、かなり回数が減りました。貧血の症状も落ち着いてきました。」といっていただけました。
切れ痔といっても、人によって体質は異なります。それぞれの方に合った漢方薬をご提案します。
排便のときに辛い痛みで悩まないように、ぜひご相談ください。