この記事を書いた人
・灯心堂漢方薬局 薬局長
・薬剤師歴10年以上
・店舗のLINE登録者数1000人以上
・漢方を通して、皆様が少しでも健康に過ごせる手助けをできればと思います。>>プロフィール記事はこちら
西山光です
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補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯って似ているけど、違いはあるの?
このようなお悩みに漢方薬局の薬剤師がお答えします。
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯はどれも気を補う漢方薬で、疲労倦怠感などによく使用されます。
この記事ではそれらの違いを知り、ご自身でお薬を選ぶ際の医薬品の適正使用につながればと思います。
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯が似ている理由としては、5つの生薬が重複しているためです。
人参・黄耆・白朮・当帰・甘草の5つの生薬は補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯それぞれに含まれています。
人参と黄耆(おうぎ)の組み合わせは参耆剤(じんぎざい)という名前で知られ、気を強く補ってくれます。
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯には人参と黄耆が入っているため、体力虚弱な方に適し、疲労倦怠感に効能効果があります。
生薬が共通しているものが多いため、効能効果も似ています。
効能効果の記載も似ている部分が多く、効能効果から違いを考えるのは難しいです。
下に補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯の順番で効能効果をまとめました。
体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒
補中益気湯の効能効果(薬局製剤)
体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
十全大補湯の効能効果(薬局製剤)
体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後などの体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
人参養栄湯の効能効果(薬局製剤)
効能効果については、同じ漢方薬でもメーカーによって異なりますので、もしご購入の際はきちんとパッケージにて確認してください。
共通する効能効果として、「体力虚弱」「疲労倦怠感」「病後・術後の衰弱、体力低下」「食欲不振」「ねあせ」が記載されています。
また十全大補湯と人参養栄湯に関しては、効能効果の記載はほぼ同じです。効能効果に違いがなければ、使い分けが難しいのも当然です。
補中益気湯に特有の効能効果としては、「元気がなく」「胃腸の働きが衰えて」「疲れやすいもの」「虚弱体質」「感冒」が記載されています。
効能効果も似ている記載が多いため、使い分けの違いを知るのは難しいといえます。
効能効果の記載も、似ている部分が多いです。とくに十全大補湯と人参養栄湯はほぼ同じで、違いはありません。補中益気湯には「元気がなく」等の記載があります。
効能効果の記載からでは使い分けが難しいため、生薬から違いを説明したいと思います。
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯のすべて入っている生薬は、人参・黄耆・白朮・当帰・甘草の5つです。
人参・黄耆・白朮・甘草の気を補う生薬はすべてに共通しているため、補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯の全てに気を補う働きがあるといえます。
また当帰という血を養う生薬も共通して入っており、あまりイメージはないですが、補中益気湯にも血を補う働きがあるといえます。
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯はすべて気を補う生薬が入っています。
補中益気湯は補気と昇提を兼ねた漢方薬です。
補中益気湯の構成をみると、人参・黄耆などの気を補う生薬が多く入っていることがわかります。
また補中益気湯の一番の特徴は黄耆・柴胡・升麻の昇提薬(気を上へ持ち上げる)が入っていることです。
体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒
補中益気湯の効能効果(薬局製剤)
補中益気湯は気を補い、気を上に持ち上げることで、「元気がなく」「虚弱体質」「疲労倦怠感」「食欲不振」などに効能効果があります。
十全大補湯は補気薬と養血薬のどちらも配合された漢方薬です。
十全大補湯の構成とみると、補気薬と養血薬のどちらも入っていることがわかります。
体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
十全大補湯の効能効果(薬局製剤)
十全大補湯の成り立ちが四君子湯(気を補う処方)と四物湯(血を養う処方)があわさったものがベースになっています。
四君子湯の構成は「気虚」に対応し、四物湯の構成は「血虚」に対応しています。
十全大補湯だけで、気を補い、血を養うことで、「体力虚弱」「疲労倦怠感」「貧血」に効能効果があります。
人参養栄湯は気・血の両方を補い、酸味が引き締めることで、気血を留める働きがあります。
人参養栄湯の構成をみると、補気薬と養血薬以外にも、収斂の五味子、安神の遠志、化痰の陳皮が入っていることがわかります。
体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後などの体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
人参養栄湯の効能効果(薬局製剤)
人参、白朮、茯苓、甘草、黄耆は気を補って、元気や消化器の働きを高めます。
当帰、芍薬、地黄は血を補い、貧血に対応しています。
人参養栄湯には十全大補湯に入っていた川芎が入っていません。川芎は血を養うとともに、気を発散する性質があります。川芎の気を発散する性質は補う働きと相性が悪いです。人参養栄湯の方が十全大補湯よりも補う意識が高いため、気を発散してしまう川芎が入っていないと考えられます。
人参養栄湯で一番の特徴が五味子という生薬です。五味子は酸味にて、収斂し、引き締める働きがあります。引き締めることで、気血を身体に留めようとしてくれます。
遠志は気持ちを落ち着ける働きがあり、陳皮は胃腸の働きを助ける働きがあります。
人参養栄湯は気血双補し、「体力虚弱」「疲労倦怠感」「食欲不振」「ねあせ」などに効能効果があります。
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯の違いと使い分けについて説明したいと思います。
十全大補湯と人参養栄湯はどちらもよく似ているため、まずは「補中益気湯」と「十全大補湯・人参養栄湯」の違いについて説明します。
その後、十全大補湯と人参養栄湯の違いについて説明します。
補中益気湯の特徴は気を上にめぐらせること。元気がないときに適しています。
補中益気湯には血を養う生薬は当帰しか入っていません。血虚もある方にはやや不適。気虚と血虚があれば、十全大補湯・人参養栄湯の方が適します。
補中益気湯には黄耆・柴胡・升麻の気を上にめぐらせる生薬が入っています。
気を上にめぐらせることは元気にもつながります。
効能効果にも「元気がなく」とあり、補中益気湯は元気がない方に適しています。
補中益気湯は、十全大補湯などと比べると、血を養う生薬は当帰だけです。血虚の症状もあれば、十全大補湯、人参養栄湯の方がおすすめです。
十全大補湯と人参養栄湯はとても似ています。
十全大補湯から川芎を抜いて、五味子・遠志・陳皮を足せば、人参養栄湯になります。
人参養栄湯=十全大補湯ー川芎+五味子・遠志・陳皮
川芎は血を養う生薬であるため、十全大補湯と人参養栄湯を比べると、川芎の入った十全大補湯の方が血を養う生薬が多く入っているといえます。
人参養栄湯に川芎が入っていない理由としては、川芎は血を補うとともに、気を発散する性質があります。気虚が強い方に、川芎をつかうと余計に体力を消耗してしまう恐れがあります。
そこで人参養栄湯は川芎を抜き、五味子を入れることで、気血を留めようとする働きを強くしています。
人参養栄湯の方が体力虚弱が強く、身体が大変弱っている方に適しているといえます。
十全大補湯には血を養う生薬が多く入り、気虚・血虚に適した漢方薬です。人参養栄湯よりも血虚の生薬の種類が多いです。
十全大補湯は川芎も入っているため、かなり体力虚弱な方に対しては、人参養栄湯の方が適しています。
人参養栄湯は五味子なども入り、体力虚弱な方の気を効率よく補ってくれます。
十全大補湯に比べると、川芎が入っていないため、血を養う生薬の数が1つ少ない
補気薬の基本的は処方を六君子湯とし、養血薬の基本的な処方を四物湯としています。
右にいけば補気の働きがあり、上にいけば養血の働きがあります。
補中益気湯は気を補う働きがあるため、右の補気寄りで、当帰が入っているため、六君子湯よりも上に位置しています。
十全大補湯は養血薬も、補気薬もどちらも多く入っているため、右上の位置になります。
人参養栄湯は十全大補湯と比べると川芎が入っていないため、十全大補湯よりも下になり、五味子などが入っているため、十全大補湯よりも右の位置にしています。
・補中益気湯は気を補い、気を上に持ち上げることで、「元気がなく」「疲労倦怠感」のある方に適しています。
・十全大補湯は気血双補の漢方薬で、疲労倦怠感、貧血のある方に適しています。
・人参養栄湯も気血双補ですが、五味子が収斂することで、気血を留める働きがあります。