【桂枝加竜骨牡蛎湯】わかりやすい解説(けいしかりゅうこつぼれいとう)~神経過敏、不眠症
桂枝加竜骨牡蛎湯
桂枝加竜骨牡蛎湯の働きを添付文書の効能効果から掘り下げて、考えたいと思います。
薬局製剤の桂枝加竜骨牡蛎湯の効能効果には、「体力中等度以下で、疲れやすく、神経過敏で、興奮しやすいものの次の諸症:神経質、不眠症、小児夜泣き、夜尿症、眼精疲労、神経症」と記載されています。
医療用ツムラの添付文書には、「下腹直腹筋に緊張のある比較的体力の衰えているものの次の諸症:小児夜尿症、神経衰弱、性的神経衰弱、遺精、陰萎」と記載されています。
医療用コタローの添付文書には、「神経症状があり、頭痛、のぼせ、耳鳴りなどを伴って疲労しやすく、臍部周辺に動悸を自覚して排尿回数、尿量ともに増加するもの。神経衰弱、心悸亢進、性的ノイローゼ、陰萎、小児夜尿症、夜驚症、脱毛症。」と記載されています。
メーカーによって効能効果の記載が異なることがわかります。
小児夜泣きから、神経衰弱、脱毛症まであります。
桂枝加竜骨牡蛎湯の性質がわかれば、記載されている内容は違っても、意味することは同じであることがわかります。
桂枝加竜骨牡蛎湯がなぜこれらの効能効果があるのか、添付文書の意味がわかるように解説したいと思います。
商品によって効能効果は異なるので、ご購入の際は商品説明をきちんとお読みください。
構成
桂枝加竜骨牡蛎湯は桂皮・芍薬・大棗・生姜・甘草・竜骨・牡蛎から構成されています。
漢方薬の名前からも桂枝湯に竜骨・牡蛎が加わったものです。
竜骨・牡蛎
桂枝加竜骨牡蛎湯で重要な生薬が竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)です。
竜骨は哺乳類の化石のこと。
牡蛎はカキの貝殻のこと。
化石とカキの貝殻を思い浮かべると、どちらも固く、重量のある物質であることがわかります。
重たい生薬は、たかっぶった気持ちを鎮める働きがあります。
神経質で不安な気持ち、不眠症、夜驚症といった気持ちを鎮めるのが竜骨・牡蛎です。
竜骨・牡蛎は桂枝加竜骨牡蛎湯だけではなく、柴胡加竜骨牡蛎湯にも入っています。
柴胡加竜骨牡蛎湯の場合も同じく、イライラ・不安な気持ちを鎮めるために竜骨・牡蛎が入っています。
竜骨・牡蛎が不安な気持ち、イライラを鎮めてくれると覚えてください。
桂枝湯
桂枝湯(けいしとう)は本来はカゼの初期につかう漢方薬です。
桂枝加竜骨牡蛎湯はカゼと関係なく、気持ちを落ち着かせる漢方薬です。
なぜ桂枝湯がベースになっているかというと、少し難しいのですが、簡単に言うと桂枝湯には気血の流れを整える働き(営衛調和)があるからです。
桂枝湯はカゼの初期に使うといいましたが、カゼの初期のやや寒気を感じる程度の状態のときは、桂枝湯で気血のバランスを整えてあげるだけでもカゼは治ります(寒気が強かったり、発熱、咳やほかにも症状があるときには別の漢方薬をつかう必要があります)。
桂枝湯が気血の流れを整えるといってもイメージしづらいと思うので、より詳細に説明したいと思います。
桂枝湯を考える重要になるのが、桂皮・芍薬の組み合わせです。
桂皮は上向きに気をめぐらせ、反対に芍薬は気を内側に返す働きがあります。
桂皮が上向きに働くということは、身体の内側から体表の気が不足しているところに気を送り届けます。
芍薬の内側に返す働きは、体表の気を身体の内側の気が不足しているところに気をめぐらせます。
桂皮と芍薬の組み合わせで、身体の気血のバランスを改善し、弱っている身体を整えてくれます。
生姜・大棗・甘草は胃腸の働きを助け、胃薬のような役割として入っています。様々な漢方薬にも入っている組み合わせです。
性質
生薬が合わせることで漢方薬としての性質がわかりやすくなります。
熱める・冷ます、上昇・下降、補う・瀉す、潤す・乾燥させるなどの性質があります。
漢方薬は西洋医学と異なり、複数の生薬から構成されています。
複数の生薬が合わさることで、お互いの良い所をさらに強化することができます(人参に黄耆を加え、補う働きを強化するなど)。
反対に生薬が合わさることで悪い部分を互いに消しあうこともできます(冷やして潤す知母と、冷やして乾かす生薬の黄柏を合わせることで、潤燥を互いに相殺し、冷やす働きだけが残るなど)。
桂枝加竜骨牡蛎湯の生薬が合わさった性質を説明したいと思います。
桂枝加竜骨牡蛎湯の性質をまとめると上記のグラフになります。
桂枝加竜骨牡蛎湯の桂枝湯が気血のバランスを整え、補う方向に働きます。
人参のように直接気を補う性質ではないため、やや補う程度です。
竜骨・牡蛎が入っていることからも、下向きに働く性質は強いといえます。
潤す・乾かす、についてはそれを意図した生薬が入っていないため、中央にしています。
温める・冷やすの性質については、桂皮が入っているため温める性質は少しあるのですが、強くはないため中央にしています。
潤燥・温寒については、偏っていないため使いやすい漢方薬といえます。
桂枝加竜骨牡蛎湯は気血の流れを整え、不安な気持ちを鎮めてくれる漢方薬です。
不安な気持ちの原因は?
漢方において不安な気持ちになる原因に一番多いものは気の鬱滞です。
気の鬱滞があることで、気がのびやかに動くことができず、不安になり、イライラにもなりやすくなります。
気の鬱滞による不安には、四逆散、加味逍遙散、柴胡加竜骨牡蛎湯などをつかいます。
しかし桂枝加竜骨牡蛎湯の不安は気滞が原因ではありません。
桂枝加竜骨牡蛎湯の不安は、心と腎のバランスが崩れていることで生じます。
桂枝加竜骨牡蛎湯の場合はとくに腎が重要になります。
普段、腎は気持ちや、エネルギーを固め、留める働きがあります。
腎がしっかりしていれば、不安な気持ちが込みあがってこず、エネルギーも留めることができます。
しかし桂枝加竜骨牡蛎湯のように虚労で身体が弱っているときには、腎の留める働きも弱くなります。
腎の機能が弱くなることで、不安な気持ちが突きあがりやすくなります。
桂枝加竜骨牡蛎湯の牡蛎は海の塩味であり、腎に働きやすい生薬です。
牡蛎と竜骨が合わさることで、腎から浮き上がってくる不安な気持ちを鎮めます。
効能効果なぜ?
桂枝加竜骨牡蛎湯の効能効果はメーカーによって異なります。
「体力中等度以下で、疲れやすく、神経過敏で、興奮しやすいものの次の諸症:神経質、不眠症、小児夜泣き、夜尿症、眼精疲労、神経症」
「下腹直腹筋に緊張のある比較的体力の衰えているものの次の諸症:小児夜尿症、神経衰弱、性的神経衰弱、遺精、陰萎」
「神経症状があり、頭痛、のぼせ、耳鳴りなどを伴って疲労しやすく、臍部周辺に動悸を自覚して排尿回数、尿量ともに増加するもの。神経衰弱、心悸亢進、性的ノイローゼ、陰萎、小児夜尿症、夜驚症、脱毛症。」
桂枝加竜骨牡蛎湯には上記のように様々な効能効果があります。
なぜこのような効能効果なのか、説明したいと思います。
体力中等度以下、比較的体力の衰えているもの、疲れやすい
→桂枝加竜骨牡蛎湯の桂枝湯が気血のバランスを整えることで、体力が補われます。そのため体力が少し弱っている方向けの漢方薬になっています。桂枝加竜骨牡蛎湯はもともとは『金匱要略』の虚労病に記載のある方剤で、虚労の状態を意識した漢方薬です。しかし人参のような気を強く補う生薬は入っていないため、体力虚弱とまでは表現されていません。
下腹直腹筋に緊張のある
→下腹部の腹直筋が緊張している状態は、虚の状態を示しています。身体が弱ることで筋肉がつっぱっています。桂枝加竜骨牡蛎湯をつかう体質は比較的体力の衰えているため、この状態に当たります。
臍部周辺に動悸を自覚
→桂枝加竜骨牡蛎湯の不安は、腎の留める働きが弱り、気持ちが突きあがってくると説明しました。不安な気持ちは水を一緒に引き連れ、へその周辺で動悸を打つようになります。腎がしっかりしていれば、水を腎に留めていることができます。しかし桂枝加竜骨牡蛎湯のように、腎が弱り、気持ちを鎮めることができなくなると、水分も一緒に突きあがり、お腹を押さえると動悸を感じるようになります。へそ周辺の動悸は不安な気持ちと一緒に竜骨・牡蛎で鎮めます。
神経過敏で興奮しやすい
→気がしっかりあれば気持ちを落ち着けることができます。反対に気が不足すると、気持ちをどっしりと鎮めることができなくなり、不安な気持ち、イライラ、驚きが浮き上がりやすくなります。それを神経過敏で興奮しやすいと表現しています。
頭痛、のぼせ、耳鳴りなどを伴って疲労しやすく
→しっかり気を鎮めることができていればいいのですが、それができなければ虚陽が浮き上がり、頭部で頭痛、のぼせ、耳鳴りとなります。
排尿回数、尿量ともに増加するもの、夜尿症
→腎の留める働きが弱ることで、尿を留めることができなくなり、排尿回数が多く、尿量も多くなります。尿の色も透明に近い色になります。桂枝加竜骨牡蛎湯が腎の留める働きを助け、排尿回数を減らします。夜尿症も夜に尿を留める働きが弱り、漏れ出る症状といえます。桂枝加竜骨牡蛎湯が尿を留めやすくします。
神経質、神経症
→気をきちんと鎮めることができなければ、イライラ・不安な気持ちが上がってきやすくなります。イライラ・不安が込みあがりやすい状態のため、ちょっとしたことでも不安になったり、驚きやすくなったりします。
小児夜泣き
→夜泣きの原因はいくつかあるかもしれませんが、桂枝加竜骨牡蛎湯をつかう夜泣きは不安な気持ちから生じる夜泣きです。不安な気持ちを鎮めることで夜泣きが落ち着きます。
眼精疲労
→桂枝加竜骨牡蛎湯を眼精疲労につかうことはなかなかありませんが、効能効果には記載されています。眼精疲労の記載がある理由としては、漢方において瞳孔は腎が働く部位と考えられています。桂枝加竜骨牡蛎湯が腎の働きを助けることで、眼精疲労に効くと考えられます。
心悸亢進
→心悸亢進とは動悸のことで、心臓がドキドキと激しく脈打つことです。動悸の要因はいくつか考えられますが、桂枝加竜骨牡蛎湯の動悸は不安な気持ちから生じる動悸です。不安が込みあがってくることで動悸となり、ドキドキするようになります。桂枝加竜骨牡蛎湯が不安とともに動悸を鎮めます。
夜驚症
→夜驚症(やきょうしょう)とは睡眠中に突然、恐怖、興奮した表情で悲鳴のような声を上げて覚醒してしまうことです。不安な気持ちが寝ているときに突きあがってくることで生じると考えられます。桂枝加竜骨牡蛎湯が不安な気持ちを鎮めるため、効能効果に記載があると思われます。
脱毛症
→漢方でも脱毛症にはいくつかのタイプが考えられます。気の不足、血の不足、気の鬱滞、血の鬱滞など様々です。桂枝加竜骨牡蛎湯の脱毛症は腎からくる脱毛症です。「髪は腎の華」といわれ、髪は腎の健康状態と相関があります。腎の留める働きが弱くなることで脱毛症となっているときは、桂枝加竜骨牡蛎湯が向いていると考えられます。桂枝加竜骨牡蛎湯をつかう体質なので、精神的にも不安になりやすい体質です。
性的ノイローゼ
→ノイローゼとは神経症のことです。性的なことで神経症になっている状態。精神的なものが原因であるときは、桂枝加竜骨牡蛎湯が気持ちを鎮めてくれます。
遺精
→遺精(いせい)とは、今でいう夢精のこと。漢方では夢精になるのは、精を留める力が弱まり、それが漏れ出ていると考えられます。精を留め、しっかり元のところに鎮めるために桂枝加竜骨牡蛎湯をつかいます。
陰痿
→陰痿(いんい)とは現代でいうインポテンツのこと。陰痿の原因もいくつかあり、陽気の不足のことが多い印象です。それとは異なり、桂枝加竜骨牡蛎湯の陰痿は力を留め、固める力が弱いことで起こるものです。わかりやすく言うと、陽気不足の陰痿は単純に元気がない。桂枝加竜骨牡蛎湯の陰痿は力を維持し、固める力が弱いときです。
桂枝加竜骨牡蛎湯が効かない理由は?
桂枝加竜骨牡蛎湯は込みあがってくる不安な気持ちを鎮める漢方薬です。不安の原因が気の鬱滞、心の血の不足のときのは効果を発揮できません。簡単にいえば、体質があっていないときは効きにくいです。
気の鬱滞から不安になるときは、気の通りを良くする必要があります。半夏厚朴湯はシソの葉が気のめぐりを改善し、不安な気持ちの原因となる気を半夏・厚朴が下へ降りやすくしてくれます。
気の不足・心の血の不足が不安の原因のときは、桂枝加竜骨牡蛎湯では対応できません。帰脾湯・加味帰脾湯は人参・黄耆の気を補う生薬と酸棗仁・竜眼肉の心の血を養う生薬が多く入り、気血を補い、気持ちを鎮めてくれます。

まとめ
桂枝加竜骨牡蛎湯の働きを添付文書から解説しました。
桂枝加竜骨牡蛎湯は、不安な気持ちを鎮め、気血のバランスを整えることで、「体力中等度以下で、疲れやすく、神経過敏で、興奮しやすいものの次の諸症:神経質、不眠症、小児夜泣き、夜尿症、眼精疲労、神経症」に効能効果を発揮します。