【補中益気湯】効能効果のわかりやすい解説(ほちゅうえっきとう)~けん怠感、食欲不振
補中益気湯
補中益気湯の働きを添付文書の効能効果から掘り下げて、考えたいと思います。
医療用ツムラ補中益気湯の効能効果には
「消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症」
と記載されています。
食欲不振、胃下垂、病後の体力増強があるのはわかりますが、脱肛、痔、多汗症にも効くとなると想像しにくいと思います。
添付文書の意味がわかるように解説したいと思います。
ただし、商品によって効能効果は異なるので、ご購入の際は商品説明をきちんとお読みください。
構成
補中益気湯には、黄耆、白朮(メーカーによっては蒼朮)、人参、当帰、柴胡、大棗、陳皮、甘草、升麻、生姜の生薬から構成されています。
気を補う
補中益気湯には気を補う生薬が多く入っています。
黄耆、白朮、人参、大棗、甘草、生姜、陳皮が気を補ってくれます。
とくに人参と黄耆の組み合わせは強く気を補う働きがあり、参耆剤(じんぎざい)ともいいます。
人参が強く気を補い、黄耆が全身に送り届けます。
人参は強く気を補ってくれるのですが、その分重たくなりがちなのですが、陳皮が入ることでそれを防ぐ良い構成になっています。
気を上らせる
補中益気湯には黄耆、柴胡、升麻の気を上向きに持ち上げる生薬が3つも入っています。
生薬によっては上向き、下向きの方向性があります。
気分が沈んでいるときは気を上向きに持ち上げる必要がありますし、反対に気が高ぶっているときは気持ちを落ち着かせるために下向きに鎮める必要があります。
とくに補中益気湯は気を上向きにめぐらせる生薬が多く入り、昇性の漢方薬といえます。
血を補う
補中益気湯には当帰という血を補う生薬が入っています。
体力が衰えることで不足しがちな血を補ってくれます。
性質
生薬が合わせることで漢方薬としての性質がわかりやすくなります。
熱める・冷ます、上昇・下降、補う・瀉す、潤す・乾燥させるなどの性質があります。
漢方薬は西洋医学と異なり、複数の生薬から構成されています。
複数の生薬が合わさることで、お互いの良い所をさらに強化することができます(人参に黄耆を加え、補う働きを強化するなど)。
反対に生薬が合わさることで悪い部分を互いに消しあうこともできます(冷やして潤す知母と、冷やして乾かす生薬の黄柏を合わせることで、潤燥を互いに相殺し、冷やす働きだけが残るなど)。
補中益気湯の生薬が合わさった性質を説明したいと思います。
効能効果なぜ?
医療用ツムラ補中益気湯の効能効果には
「消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症」
とあります。
なぜこのような効能効果なのか考えたいと思います。
「消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者」
→気が不足していると消化機能が衰えます。手足の先まで気が行きわたっていないと、四肢倦怠感があらわれます。補中益気湯の気を補い、全身へめぐらせる働きは「消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者」の方に適しているといえます。
夏やせ
→夏バテなどで夏やせするときは、食欲がなく、けん怠感が強い状態です。補中益胃湯が気を補い、気を全身へめぐらせます。
病後の体力増強
→病気のあとは体力を消耗し、気が枯渇した状態です。補中益気湯が気を強く補い、病後の体力を補います。病気のあとで体力が弱っているときにも補中益気湯は使うことができます。
結核症
→結核は免疫の低下した虚弱体質の方がなりやすいといわれています。補中益気湯が気を強く補い、虚弱体質につかわれるため、このような効能効果が記載されていると考えられます。現代では結核は抗生物質の投与で治る病気になっており、抗生物質の投与が第一選択となっています。
食欲不振
→補中益気湯の人参・黄耆が気を補うことで胃腸の働きを整えます。
胃下垂、痔、脱肛、子宮下垂
→補中益気湯は気を上向きに持ち上げる働きが強い漢方薬です。漢方では、気がきちんと上向きにめぐることで内臓が正しい位置に納まると考えられています。反対に気の上向きの力が弱いときは、内臓の位置が下がります。内臓が下に落ち込むことで胃下垂、痔、脱肛、子宮下垂となります。補中益気湯の上ベクトルの働きから胃下垂の効能効果の記載があると考えられます。
感冒
→補中益気湯は気を補う漢方薬です。気が不足し、熱が出やすい感冒の方にも補中益気湯をつかうことができます。
陰痿
→陰痿とはインポテンツのことです。気が不足し、全身に行きわたっていないことで陰痿になると考えられ、補中益気湯の効能効果に記載されていると考えられています。陰痿は気の問題だけでなく、漢方では腎の不調もあると考えられます。
半身不随
→半身不随になることで、手足がやせて、弱っていきます。補中益気湯は気を強く補う漢方薬であり、消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質の方に向いています。効能効果に半身不随とありますが、半身不随を治すというよりかは、半身不随で弱った手足に気を補い、気をめぐらせ、労わる意味合いが強いと思われます。
多汗症
→漢方では気が不足すると、汗の穴を閉じることができなくなると考えられています。反対に気が充実していれば、汗の穴を閉じることができ、多汗を防ぐことができます。補中益気湯は人参が気を補い、黄耆が皮膚まで気をめぐらせることで、多汗症にもつかうことができます。
ほかの漢方薬との違い
補中益気湯に似た漢方薬に十全大補湯があります。
どちらの漢方薬にも人参・黄耆・白朮の気を補う生薬がしっかり配合されており、弱っているときにつかう漢方薬の印象があると思います。
補中益気湯と十全大補湯の大きな違いは、血に働く生薬の数です。
十全大補湯には、当帰・芍薬・川芎・地黄の4種類も血に働く生薬が入っています。
それに対し、補中益気湯は当帰の1つだけが血を養うのに働きます。
漢方において、血は栄養状態を表し、貧血、皮膚の乾燥につながります。
そのためコタロー十全大補湯の効能効果には「皮膚および粘膜が蒼白で、つやがなく、やせて貧血し、食欲不振や衰弱がはなはだしいもの。消耗性疾患、あるいは手術による衰弱、産後衰弱、全身衰弱時の次の諸症。低血圧症、貧血症、神経衰弱、疲労けん怠、胃腸虚弱、胃下垂。」と肌の状態、貧血についての記載があります。
肌が青白く、つやがなく、貧血傾向の方は十全大補湯が適しています。
補中益気湯と十全大補湯の大きなもう1つの違いは、気を動かす働きです。
補中益気湯には黄耆・柴胡・升麻の気を上に持ちあげる生薬が3つも入っていましたが、十全大補湯には黄耆の1つだけです。
気を持ちあげる働きは補中益気湯の方が強いといえます。
補中益気湯が効かない理由は?
補中益気湯は気を補い、気を上へめぐらせる漢方薬です。元気がでない原因にはいくつかあり、補中益気湯のような気虚と気が落ち込んでいる体質のときには補中益気湯は適しているのですが、気の鬱滞が強いときや、気の不足から腎も弱ってきているときには補中益気湯では対応できません。簡単にいえば、体質があっていないということです。
気の鬱滞が強いと、気が全身にまで行き渡らず、元気がなくなります。元気がない、食欲不振と聞くと気が足りていない印象がありますが、気のめぐりを改善するだけで元気がでるようになる方が多くいらっしゃいます。
気の不足が強いと、腎まで影響します。漢方で腎とは生命エネルギーのことを意味します。加齢によって、力が衰え、トイレが近くなっていくのも腎の衰えです。腎の働きは人参では補うことができず、補腎薬をつかう必要があります。
補中益気湯は自律神経失調症に効くのか?
補中益気湯に限らず、全ての漢方薬の効能効果に、最近できた言葉である自律神経失調症の記載は当然ありません。しかし漢方薬は体質があっていれば服用できます。自律神経失調症だから補中益気湯を服用できるのではなく、ご自身の状態と補中益気湯の効能効果が一致する場合は服用できます。
クラシエ補中益気湯の効能効果には「体力虚弱で,元気がなく,胃腸の働きが衰えて,疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質,疲労倦怠,病後・術後の衰弱,食欲不振,ねあせ,感冒」と記載されています。
自律神経失調症に限りませんが、「体力虚弱で、元気がなく、胃腸の働きが衰えて、疲れやすい方の疲労倦怠」に当てはまれば服用できます。
自律神経失調症の症状は多種多様で個人差が大きいです。
「自律神経失調症だからこの漢方薬が効く!」のではなく、それぞれ個人の症状に合った漢方を選ぶことで効果を発揮します。
症状ごとに漢方薬をまとめているので、次のページを参考にしてください。
まとめ
補中益気湯の効能効果は幅広く、どうしてこれにも効能効果があるのか、疑問に思っていた方もいると思います。
補中益気湯は気を補い、上向きに持ち上げることで、「消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症」の効能効果があります。