腰痛を改善するときの漢方薬の考え方と体質、食事について

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西山光です
目次

腰痛とは?

“「腰痛」とは疾患(病気)の名前ではなく、腰部を主とした痛みやはりなどの不快感といった症状の総称です。”厚生労働省『腰痛対策』

腰痛というのは、腰を中心とした腰の痛み全般のことをいいます。

腰痛は大きくわけると2種類に分けられます。

原因がわかる腰痛と、原因がわからない腰痛です。

原因がわかる腰痛を特異的腰痛といい、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、圧迫骨折などがこれに当てはまります。

原因がわからない腰痛を非特異的腰痛といい、原因が特定できない腰痛を指します。

(実はぎっくり腰も非特異的腰痛に入ります。ぎっくり腰の診断は腰椎捻挫(ようついねんざ)又は腰部挫傷(ようぶざしょう)ですが、厳密にどの組織のケガかは医師が診察しても X 線検査をしても断定できないため非特異的腰痛に入ります)。

この原因がわかる腰痛と原因がわからない腰痛、どちらの割合が多いと思いますか?

原因がわからない腰痛の非特異的腰痛が全体の85%を占めます!

腰痛の原因が特定できる特異的腰痛は全体のたった15%となります。

以上のことからも腰痛の85%はエックス線やMRIでも原因がわからないのが現状です。

反対にいえば、15%は原因がわかる腰痛のため、一度病院の受診をおすすめします。

漢方での痛みの分類

漢方で痛みを考えるうえで重要な言葉が二つあります。

「不通則痛」、「不栄則痛」という言葉。

不通則痛とは?

気血水の通りの悪いところがあれば、痛みとなるという意味。

”不通則痛(通じざれば則ち痛む)”

痛みがあるということは、何かが流れを邪魔していると考えられます。

何が流れの邪魔をしているのか、次にいくつかのパターンを紹介します。

気滞

気の鬱滞があれば、気のめぐりが悪くなり、張ったような痛みになります。

頭痛や肩こりでも張ったような痛みであれば、気滞が痛みの原因の可能性があります。

瘀血(おけつ)

血の鬱滞があれば、血のめぐりが悪くなり、刺すような痛みになります。

生理のときに刺すような痛みがあるときは血の鬱滞が痛みの原因の可能性があります。

水・痰湿

水、痰湿の鬱滞があれば、水のめぐりが悪くなり、おもだるい痛みになります。

雨が降ったときに、おもだるい関節痛になるときは、水・痰湿の鬱滞が痛みの原因の可能性があります。

風邪

風邪というのは風のような移動性の性質をもった邪のことです。

風邪は今ではカゼと呼びますが、漢方ではフウジャと読みます。

カゼの由来は漢方の風邪から来ていると考えられます。

風邪が入り込むと、頭痛や関節痛になります。

頭痛、関節痛はカゼの症状の1つですよね。

カゼひいたときに頭痛、関節痛になるのは風邪が原因です。

熱がなくても、頭や関節に風邪が潜んでいることで痛みになります。

寒邪

寒邪というのは、寒さのことです。

冬の寒い時期になると、関節が痛んだり、腰が痛んだりするのは寒邪が原因といえます。

寒邪が気血の流れを邪魔することで痛みとなります。

寒邪が原因の場合は、お風呂に入ったり、温めたりすると痛みが多少緩和します。

湿邪

湿邪というのは、水の性質をもった邪のことです。

湿気の水をもった邪であるため、重たく、粘膩で、除去しづらい性質があります。

粘性をもった水が気血の流れを邪魔することで痛みとなります。

湿邪の場合はおもだるい痛み、締め付けるような痛みが特徴的です。

不栄則痛とは?

筋肉や組織が栄えてないことで、気血が十分にめぐらず、痛みが生じるという意味。

”不栄則痛(栄えざれば則ち痛む)”

簡単にいえば、栄養状態が悪いときです。血虚といわれます。

加齢や長い病気、過労によって、気血が足りず、血虚となり、筋肉・組織を滋養することができなくなります。

痩せた筋肉・組織では、十分な量の気血をめぐらせることができず、痛みとなります。

漢方での痛みの考え方のまとめ

・不通則痛→気血の流れを邪魔されることで痛む
このようなときは、痛みの原因となっているものを取り除いてあげる必要があります。

・不栄則痛→筋肉・組織が栄養不足で痛む
このようなときは、痛みの原因となっている栄養を補ってあげる必要があります。

漢方では痛みを性質にわけて考えます。

痛みでも張った痛みなのか、刺すような痛みなのか、締め付けるような痛みなのか、ボーッとするような痛みなのか。

同じ痛みでも使う薬は全く違います。痛みだからといって全員に同じ薬を使うとは限りません。

一人ひとり、きちんと性質を見極めるのが、漢方の特徴です。

腰痛に効く漢方薬は?

腰痛の効能効果があるのは疎経活血湯、五積散、八味地黄丸、桃核承気湯があります。

疎経活血湯

疎経活血湯は腰痛につかう漢方薬のなかで一番バランスが良い漢方薬です。

疎経活血湯には気滞、瘀血、水のめぐりを改善する生薬、風邪、湿邪を追い出す生薬、栄養不足の血虚の状態に血を養う生薬が入っています。

不通則痛の痛み、不栄則痛の痛みのどちらにも対応しています。

・気滞→陳皮で気を動かす
・瘀血→桃仁、牛膝にて血を動かす
・水滞→防已、白朮、蒼朮にて水を追い出す
・風邪→防風、白芷にて風邪を追い出す
・湿邪→羗活にて湿邪を追い出す
・血虚→当帰、芍薬、川芎、地黄にて血を養う

疎経活血湯は痛みの要因となる気滞・瘀血・水滞・風邪・湿邪・血虚に対応した生薬が入っています。

疎経活血湯の適応は、しびれ、腰痛、関節痛、神経痛、筋肉痛と広範囲です。

腰痛、慢性化した痛み、しびれには疎経活血湯がおすすめです。

五積散(ごしゃくさん)

五積散とは、寒積・湿積・気積・血積・痰積の5つの積に対応した漢方薬です。

実際には、気滞・水滞・風邪・寒邪・血虚に対応した生薬が多いです。

とくに温める生薬が多く入っています。

・気滞→陳皮、厚朴にて気をめぐらせる
・水滞→蒼朮、茯苓にて水を追い出す
・風邪→白芷にて風邪を追い出す
・寒邪→桂皮、麻黄、乾姜にて身体の裏から温める
・血虚→当帰にて血を養う

寒邪に対する生薬が多いことからも、五積散は寒気が重要になります。

冷えると痛みが増す、というときは寒邪が原因かもしれません。

寒気と腰痛が気になるときは五積散がおすすめです。

八味地黄丸

八味地黄丸は頻尿の薬として有名です。

八味地黄丸は頻尿だけでなく、腰痛にもつかうことができます。

頻尿の薬が腰痛に効くのか気になりませんか?

八味地黄丸を説明するにあたって、腎の働きが重要になります。

腎は成長・精力・髪・歯・脳・足腰と関係が深い臓腑であり、水をつかさどる臓腑でもあります。

成長・精力は加齢とともに衰えることからも、腎は加齢とつながりがあります。

年齢を重ねると、腎が衰えるとともに、髪は薄く、歯は弱く、脳の認知機能も衰え、足腰にも力が入らなくなります。

また腎が水をつかさどるのは西洋医学での腎臓と同じで、排尿にも関わります。

加齢とともに頻尿になるのは、水をつかさどる腎が衰え、排尿をコントロールできなくなるためです。

以上のことからも、八味地黄丸が効く腰痛というのは加齢による腰痛です。

八味地黄丸は六味丸と桂皮・附子の2味があわさり、八味地黄丸となります。

六味丸にて腎陰を補い、桂皮・附子にて腎陽を鼓舞し、八味地黄丸は補腎薬の代表的な漢方薬です。

加齢のおもだるい腰痛には八味地黄丸が得意としています。

邪がいるような実の痛みではなく、虚の痛みのため、鈍痛となります。

頻尿、手足の冷え、おもだるい腰の痛みには八味地黄丸です。

桃核承気湯

桃核承気湯は駆瘀血剤(くおけつざい)として有名な漢方薬です。

つまり桃核承気湯は血の鬱滞、瘀血の腰痛に対応しています。

桃核承気湯の桃仁はモモのタネのことで、鬱滞している血を追い出してくれます。

桃核承気湯には大黄・芒硝も入り、便通も改善してくれます。

血の鬱滞があると、生理痛、生理不順、イライラにつながります。

桃核承気湯は瘀血の腰痛だけでなく、生理痛、生理不順、イライラ、便秘にもつかうことができます。

腰痛のまとめ

・痛みと一言でいっても、漢方で考えると痛みの性質、原因は全く異なる

・何かが停滞し、気血の流れを邪魔しているものがあれば、追い出す漢方薬を使う

・気血が不足して痛みになっているときは、補う漢方薬をつかう

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