漢方で考える多嚢胞性卵巣症候群の症状と原因

 この記事を書いた人

・灯心堂漢方薬局 薬局長
・薬剤師歴10年以上

店舗のLINE登録者数1000人以上
・漢方を通して、皆様が少しでも健康に過ごせる手助けをできればと思います。>>プロフィール記事はこちら

西山光です

妊活で多嚢胞性卵巣のご相談も多いので、多嚢胞性卵巣を漢方ではどのように考えているのか、解説したいと思います。

目次

多嚢胞性卵巣症候群とは

多嚢胞性卵巣の症状と特徴

多嚢胞性卵巣は卵巣内で卵胞(嚢胞)がとどまってしまう病態です。

症状として、生理不順になったり、生理が止まったり、と生理の不調がみられます。

また多嚢胞性卵巣症候群は不妊の原因にもなります。

多嚢胞性卵巣症候群の方にみられる傾向としては、肥満、にきび、血糖値上昇、多毛、男性ホルモンが高いなどがみられることがあります。このような傾向が多いのであって、肥満でなくても多嚢胞性卵巣症候群の方はいらっしゃいます。

多嚢胞性卵巣

多嚢胞性卵巣症候群の主な原因

原因が解明されているわけではありませんが、ホルモンバランスの異常から起こるといわれています。

多嚢胞性卵巣症候群の漢方での考え方

多嚢胞性卵巣症候群は、漢方では「痰湿」を溜め込みやすい体質の方に起こりやすいといえます。

「痰湿」というのは、ヌメリのことです。カゼひいたときに、のどに痰が溜まると思いますが、漢方では痰のようなヌメリが全身の至るところで溜まると考えられています。

痰湿のイメージ
痰湿のイメージです。ドロっとして、粘性がある液体です。

上の写真が痰湿のイメージです。痰湿はドロッとして、粘性がある液体です。

この痰湿がのどに溜まると痰になります。胃に溜まると胃腸の調子が悪くなり、軟便がちになります。頭に痰湿が溜まると、めまい、ブレインフォグを引き起こします。痰湿が皮下に溜まると肥満になります。関節に痰湿がたまると、関節痛になります。痰湿が子宮・卵巣に溜まることで、多嚢胞性卵巣症候群になります。

ヌメリをため込むことで、子宮・卵巣の働きを邪魔し、不妊の原因となります。

漢方独特の概念になりますが、痰湿が多嚢胞性卵巣症候群の原因になることが多いです。

多嚢胞性卵巣症候群と痰湿

痰湿が溜まっているか簡単な自己チェック

漢方では体質が舌に反映されると考えています。

痰湿が溜まっているかどうかは、舌をみることで判断できます。

ご自身の舌の苔をみてください。苔は厚いですか?薄いですか?

舌の苔は、薄く白く全体的に広がっているのが理想的です。

舌の苔が漢方では痰湿の量をあらわします。舌の苔が厚いと、それだけ痰湿も多いです。反対に舌の苔が少ないときは、身体の潤いが不足しているといえます。

つまり痰湿が多い方は、舌の苔も厚くなります。

舌の苔が厚い方は、痰湿がたまっている傾向があるといえます。

痰湿によって引き起こされる肥満、にきび、多毛、色素沈着について

多嚢胞性卵巣症候群になることで生理不順や不妊になりますが、それ以外にも様々な症状があります。

有名なものとして、多嚢胞性卵巣症候群と同時に、肥満、ニキビ、多毛、色素沈着などがみられます。

肥満、ニキビ、多毛、色素新着が痰湿とどう関係があるのか説明したいと思います。

痰湿というヌメリをため込みやすい体質の場合、痰湿が気血の流れを邪魔し、痰湿と瘀血が合わさり(痰瘀互結)、生理を邪魔し、生理の量が少なくなり、生理が遅れがちになり、最終的には生理が止まってしまいます。

痰湿を皮下にため込むと肥満になります。肥満の方は痰湿をため込んだ体型といえます。多嚢胞性卵巣症候群が肥満の方に多いのは、肥満の方は痰湿体質といえ、溜め込んだ痰湿が子宮・卵巣に下陥し、多嚢胞性卵巣症候群となります。

「痰」という字をみると、やまいだれに火が2つと書きます。痰湿が溜まり、鬱滞していると、鬱々と火をもちはじめます。痰湿が停滞しているだけで、熱を持ちます。痰湿が鬱滞することで生じた熱が、顔に出てくるとニキビになります。熱が髪に影響を与えると、多毛になります。熱が皮膚に影響を与えると、肌がガサガサし、色素沈着を引き起こすと考えられています。

痰湿が多嚢胞性卵巣症候群を引き起こすだけでなく、ほかの特徴的な症状の肥満、ニキビ、多毛、色素沈着などにもつながっていきます。

以上からも漢方では多嚢胞性卵巣症候群は痰湿が原因と言えます。

漢方からみた多嚢胞性卵巣症候群と痰湿の関係。

なぜ痰湿を溜め込むのか?

多嚢胞性卵巣症候群は痰湿というヌメリが原因と説明してきました。

漢方は体質という考えがあります。

なぜ痰湿を溜め込み、多嚢胞性卵巣症候群になるのか、体質・原因について説明したいと思います。

痰湿が溜まる一番多い原因は、「脾虚」です。

漢方での「脾」は消化吸収の臓腑をまとめて、「脾」といいます。

西洋医学的にいえば、「脾」は胃・十二指腸・小腸・大腸・膵臓をひっくるめており、消化吸収する臓腑をまとめて「脾」といいます。

多嚢胞性卵巣症候群は「脾虚」の体質の方が多く、「脾」には膵臓が含まれるように、膵臓の機能が弱っており、多嚢胞性卵巣症候群の方に血糖値が上昇しやすい方が多いのも納得できます。

漢方の言葉で、「肺は貯痰の器、脾は生痰の源」といいます。「脾は生痰の源」です。

「脾」という消化吸収の臓腑が正常に機能していれば、身体から痰を追い出すことができます。「気」が充実して、「脾」の働きが機能していれば、痰湿を追い出すことができ、引き締まった身体になります。

反対に「気」が不足し、「脾」の機能が弱って、痰湿を溜め込んでしまうと、締まりのない身体になります。年齢を重ねると、どうしても締まりのない身体になってきませんか?漢方では気の不足から、脾が衰え、痰湿を貯留し、だらしない身体になっていくと説明できます。

「脾」という消化吸収の機能が正常に働いていないと、痰湿を溜め込み、肥満や多嚢胞性卵巣症候群になる恐れがあります。

以上を簡単にまとめると、多嚢胞性卵巣症候群は痰湿が溜まることが原因です。なぜ痰湿が溜まるかというと、「脾虚」があることで、痰湿を溜め込みやすくなります、と説明することができます。

多嚢胞性卵巣症候群の漢方での流れ

多嚢胞性卵巣症候群の方の食事

多嚢胞性卵巣症候群のポイントは痰湿をため込んでいることと、脾虚の体質が重要になります。

つまり痰湿を溜め込まないような食事と、脾の働きを助ける食事が必要になってきます。

痰湿を溜めない食事

痰湿を溜め込む食べ物は、小麦・乳製品・味の濃いもの・脂っこいものです。これらの食べ物は避けることをおすすめします。

味の濃い食べ物、脂っこいものは、重たく痰湿を溜め込みやすいイメージがしやすいと思います。

小麦はグルテンがあり、モチモチとした食べ物となります。モチモチとしたものは、痰湿を溜め込みやすいです。

牛乳も通常の水と異なり、栄養が豊富な分、ドロッとしていると思います。牛乳のドロッとした性質が極まったものがチーズです。チーズをみても、ネバネバしているのがわかると思います。

漢方の目線で考えると、多嚢胞性卵巣症候群の方は小麦・乳製品・味の濃いもの・脂っこい食事は避けるようにしてください。

おすすめとしては、白米と味のあっさりした食事です。つまり、昔の日本食が理想的です。

ほかにおすすめの食材としては、昆布やワカメの海藻類です。漢方では海藻類は凝り固まったものをほぐす働きがあると考えられています。海藻類にて、凝り固まった痰湿をほぐしていきます。

脾虚に良い食事

脾の働きを弱める食事としては、辛い物、味の濃い物、脂っこいものです。

辛いものは熱をもち、刺激性もあることからも胃腸に熱をもたせ、胃腸をつかれさせれます。辛いものは避けることをおすすめします。

味の濃いもの、脂っこいものは、胃もたれを起こすように胃に負担をかけます。

ほかに避けるべき食品としては、玄米です。白米推奨です。玄米は、白米よりも食物繊維、ビタミンなどが豊富なのは間違いありません。見方を変えると、玄米には周りに余計ものがついているため、消化に良くありません。胃腸の働きを考えるなら、白米がおすすめです。また玄米はリーキーガットを引き起こすとされ、その点からもおすすめできません。

こちらも理想は昔の日本食です。白米で、おかずは味のあっさりした食事が一番いいです。

多嚢胞性卵巣症候群の漢方薬

中国ではどういった処方をつかっているのか説明します。

中国では、脾虚痰湿の多嚢胞性卵巣症候群の方には「蒼附導痰丸(そうぶどうたんがん)」という漢方薬をよくつかいます。

蒼附導痰丸:蒼朮・香附子・天南星・枳殻・半夏・陳皮・茯苓・甘草

蒼附導痰丸の半夏・天南星・陳皮が化痰に働き、蒼朮・茯苓が利水燥湿に働き、香附子・枳殻が理気凝滞し、炒甘草が調和に働き、あわせると、化痰除湿・理気通絡・健脾通経の効能があります。

残念なことに、蒼附導痰丸は日本にはありません。日本では蒼附導痰丸に似たような構成の漢方薬をつかう必要があります。

似たような漢方薬としては、不眠症、神経症がある方は温胆湯、むくみがある方は柴苓湯などが使用されることが多い印象ですが、実際には一人ひとりの体質をみて、判断する必要があります。漢方薬は人によって使い分けるイメージがありませんか?「多嚢胞性卵巣症候群だからこの漢方薬が良い」、というものはなく、一人ひとりにあわせて、体質を判断し、漢方薬をつかいわけていきます。

漢方薬は体質によって、細かく使い分ける必要があります。脾虚痰湿にプラスで瘀血があるときは、血をめぐらせる必要があります。脾虚痰湿にプラスで腎虚がある方は、補腎も必要です。脾虚痰湿にプラスで気滞がある方は、より気をめぐらせる必要があります。

多嚢胞性卵巣症候群の方は脾虚で痰湿が溜まった方が多いですが、実際には個人差があります。多嚢胞性卵巣症候群だからといって、全員が「完全に」同じ体質ではありません。年齢や食生活、本来の体質などからも、一人ひとり体質が異なります。多嚢胞性卵巣症候群だからこの漢方薬!というのはなく、しっかり一人ひとりの体質を細かく見極めて、漢方薬をつかいわけなければなりません。

友だち追加
目次