この記事を書いた人
・灯心堂漢方薬局 薬局長
・薬剤師歴10年以上
・店舗のLINE登録者数1000人以上
・漢方を通して、皆様が少しでも健康に過ごせる手助けをできればと思います。>>プロフィール記事はこちら
西山光です
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・灯心堂漢方薬局 薬局長
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前半では機能性ディスペプシアについて、後半でも機能性ディスペプシアと診断され、当薬局に相談に来られた方の症例を記載しているので、ぜひ参考になればと思います。
機能性ディスペプシアとは、「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」です。
簡単にいうと、胃の不調に関係する病気がなく、胃カメラをしても問題がみつからないが、胃の調子が悪い状態のことです。
つまり、機能性ディスペプシアといわれるときは、はっきりとした原因が見当たらないときにいわれることが多いです。
症状は人によって多種多様で、胃もたれ、胃の不快感、膨満感、げっぷ、食欲不振、悪心、嘔吐、胸やけ、呑酸、胃酸の逆流などがあります。
機能性ディスペプシアの原因としては、胃・十二指腸の運動の異常、内臓の反応が過敏、ストレスなどの心理社会的要因、胃酸の分泌、遺伝子、感染性胃腸炎の既往歴、運動・睡眠・食事などのライフスタイル、消化管の微笑炎症などの様々な要因が関与していると考えられています。
心理的要因と、機能性ディスペプシアは関係がすることがあるといわれています。日常生活でのストレス、不安、抑うつは機能性ディスペプシアと関連があるといわれています。
胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミン受容体拮抗薬(H2ブロッカー)、アコファイドなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬、六君子湯などが使用されます。
漢方の目線で考えると、機能性ディスペプシアになりやすい体質としては、「気虚」「気滞」の体質の方です。「気虚」は気が不足し、胃腸の働きが弱っている状態です。「気滞」とは、気のめぐりが悪い状態です。気のめぐりが悪いと、消化器にも影響を与えます。
機能性ディスペプシアの体質の1つに「気虚」が考えられます。
漢方でいう「気」とは、身体の働きのことをいいます。
元気がない、食欲がない、疲れやすいなどの症状は、身体の働きが低下している状態、つまり「気虚」と考えられます。
とくに消化器は、食べ物から栄養を吸収臓腑のため、気と密接に関係があります。
食欲不振、消化不良などの症状は気虚といえます。
機能性ディスペプシアの体質の1つに「気滞」が考えられます。
気滞とは、気のめぐりが悪い状態です。
気滞の症状としては、イライラ、抑うつ、不安、お腹の張り、胃酸の逆流などがあります。
「気」は「気持ち」の「気」であり、「気滞」があると精神的な症状がでやすくなります。
また気のめぐりの悪さは、消化管の運動の悪さにもつながります。
気滞からお腹の張り、胃酸の逆流につながります。
機能性ディスペプシアの症状を考えると、単純に胃腸が弱っている「気虚」の体質だけでなく、「気滞」も絡んでいると考えられます。
機能性ディスペプシアにつかう漢方薬は症状別に考えることができ、食欲不振・胃腸が弱い方は香砂六君子湯、食後の胃もたれ・消化不良の方は加味平胃散、胸やけ・不安の方は茯苓飲合半夏厚朴湯、慢性胃炎でみぞおちがつかえ、胃が開かない感じがあれば、延年半夏湯を使用します。
□食欲不振 □胃腸が弱い→香砂六君子湯
□食後の胃もたれ □消化不良→加味平胃散
□胸やけ □吐き気 □不安→茯苓飲合半夏厚朴湯
□みぞおちがつかえている→延年半夏湯
食欲不振、胃腸が弱い方は香砂六君子湯をおすすめいたします。
通常の六君子湯は人参・白朮などの胃腸の気を補う生薬から構成され、胃腸薬の代表的な漢方薬として頻用されています。
六君子湯に、香りが良く、気のめぐりを改善する生薬を足したものが香砂六君子湯です。
そのため、香砂六君子湯は六君子湯よりも胃腸の気をめぐらせる働きがあります。
六君子湯と、香砂六君子湯を比較してどちらが優れているとかはないのですが、六君子湯で効果の実感がなかった場合は香砂六君子湯を服用してみる価値があると思います。
食後に胃もたれが気になったり、消化不良の実感のある方は加味平胃散をおすすめいたします。
加味平胃散は字のごとく、胃を平らにする漢方薬です。
加味平胃散が食後の胃もたれに適しているのは、麦芽・山査子という生薬が入っているためです。
漢方では、麦芽は炭水化物の消化を助け、山査子が肉の消化を助けるといわれています。
食後の胃もたれ、消化不良がある場合は、加味平胃散が消化を助け、胃もたれ、消化不良に効能効果があります。
胸やけ、不安があるときは茯苓飲合半夏厚朴湯をおすすめいたします。
茯苓飲合半夏厚朴湯は名前が長いのですが、茯苓飲と半夏厚朴湯があわさった漢方薬です。
茯苓飲合半夏厚朴湯には枳実という生薬が気を下向きにめぐらせます。
半夏・厚朴がお腹周りの気をめぐらせ、人参が気を補ってくれます。
茯苓飲合半夏厚朴湯は気を下向きにめぐらせることで、胸やけも不安な気持ちも鎮めてくれます。
みぞおちがつかえ、抵抗感があるときは延年半夏湯をおすすめいたします。
みぞおちの抵抗感とは、胃が開かず、下に降りていかない症状と言い換えることができます。
延年半夏湯には呉茱萸という辛味で温めて、胃気を下に降ろす生薬が入っています。
枳実も気を下向きに巡らせ、人参が気を補ってくれます。
みぞおちに抵抗感があり、胃が開ない感じがあれば、延年半夏湯が辛味で胃を開いてくれます。
慢性胃炎は慢性的に胃粘膜の炎症がみられる疾患であり、機能性ディスペプシアは患者さんの自覚症状によって診断されるため、慢性胃炎と機能性ディスペプシアは全く異なる概念の疾患です。
ただ機能性ディスペプシアは近年提唱された疾患であるため、慢性胃炎と機能性ディスペプシアは混同されてあつかわれることも多くあります。
実際には慢性胃炎と機能性ディスペプシアは重複することもあれば、重複しないこともあります。
また内視鏡で慢性胃炎があっても、胃もたれなどの機能性ディスペプシアの症状を訴えない方も多いといわれています。
ピロリ菌と機能性ディスペプシアの関係はまだわかっていませんが、ピロリ菌を除菌することによって機能性ディスペプシアの症状が改善される方が一定の割合でいることが報告がされています。
またピロリ菌は胃潰瘍、胃がんなど様々な疾患にも関与しているため、ピロリ菌に感染しているのであれば、そういった面でもピロリ菌の除菌は推奨されます。
胃酸分泌抑制薬によって、機能性ディスペプシアの症状改善に有効であることは明らかになっています。しかし、機能性ディスペプシアの方の胃酸の分泌量を調べると、胃酸の分泌量は健常者と同様との報告が多いです。
つまり、胃酸を抑えるお薬にて症状の改善がみられることは多いのですが、実際に胃酸が原因で機能性ディスペプシアの症状がでているのかはわかっていないといえます。
機能性ディスペプシアと遺伝的要因が関与しているという報告もありますが、実際のところ関連性があるかどうかは明確になっていません。
嘔吐・下痢などの感染性胃腸炎になると、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群になりやすくなるといわれています。
機能性ディスペプシアの患者さんは、健常者に比べ運動の頻度が低いといわれています。
機能性ディスペプシアの患者さんは健常者と比べ、夜間に覚醒したり、起床時に熟睡感がみられないなどの睡眠障害がみられやすいです。
機能性ディスペプシアの方は、健常者と比べ、摂取カロリー、たんぱく質、炭水化物量には差が認められていません。
しかし、機能性ディスペプシアの方では脂肪や小麦の摂取にて腹部膨満感が生じやすくなるといわれています。
50代女性。8年前から月に数回、2,3日寝たきりでずっと吐き続ける症状がでてきた。嘔吐の回数が多いため、月の半分は寝込んでいる。胃や大腸、甲状腺、ホルモン値など様々な検査を2年かけて受けてきたが、原因はみつからなかった。血液検査も全く問題がなかった。症状を抑えるべく、アコファイド、ナウゼリン、柴胡桂枝湯などを処方してもらっているが、それでも今年の7月、8月は月の3分の1は寝込んでいた。アレルギー性鼻炎、慢性頭痛、30代から喘息。
機能性ディスペプシアでアコファイドをよく処方されるが、この方の場合は効かなかったとのこと。
お話をうかがっていると、朝の頭痛など気の鬱滞が強いと考えられました。
そのため、気の鬱滞を解き、気を下に巡らせる漢方薬を服用していただきました。
すると、2週間ほどでご連絡があり、嘔吐が全くなくなったとのこと。
月に数日ずっと吐きっぱなしだったのが、劇的に吐かなくなったといっていただけました。
それまでは嘔吐するため、車の運転ができなかったのができるようになったと言っていただけました。
この方は今でも漢方薬をつづけていただいています。
50代女性。今年になってずっと吐き気があって、気持ちが悪い。吐き気はあるが、嘔吐はしない。船酔いみたいな症状が続いている。食べた後の膨満感がずっとつづいている。気持ち悪いのがずっと続ているため、頭が真っ白で、心がざわざわする。生きるのがしんどい。アコファイドを服用していたが、あまり変化はなかったとのこと。
この方の場合は、不安の気持ちが強く、気持ちも落ち込みもかなり強かった。
精神的なものと同時に、胃の気持ち悪さが続いているため、胃腸の気をめぐらせる漢方薬をおすすめいたしました。
2週間後、気持ち悪さが楽になってきたといっていただけました。その後、再度同じ漢方薬をつづけていただき、症状も改善しています。