【排膿散及湯】(はいのうさんきゅうとう)のわかりやすい解説~膿ができはじめたときに
排膿散及湯
排膿散及湯の働きを添付文書の効能効果から掘り下げて、考えたいと思います。
薬局製剤の排膿散及湯の効能効果には
「化膿性皮膚疾患の初期又は軽いもの、歯肉炎、扁桃炎」
と記載されています。
排膿散及湯がなぜこれらの効能効果があるのか、添付文書の意味がわかるように解説したいと思います。
ただし、商品によって効能効果は異なるので、ご購入の際は商品説明をきちんとお読みください。
構成
排膿散及湯は、桔梗・甘草・大棗・芍薬・生姜・枳実から構成されています。
排膿散及湯は実は排膿”散”と排膿”湯”という2つの漢方薬が合わさった処方です。
排膿”散”と排膿”湯”と名前がよく似てややこしいですね。
日本の吉益東洞という先生が2つを組み合わせて使いはじめたといわれています。
排膿
排膿散及湯には排膿に働く生薬が多く入っています。
桔梗・枳実が膿出しの働きがあります。
とくに桔梗(ききょう)は排膿”散”にも排膿”湯”にも配合されており、排膿の要薬となっています。
枳実(きじつ)はダイダイのことで、桔梗とともに排膿します。
桔梗は上向きベクトル、枳実は下向きベクトルの方向性をもった生薬です。
方向が違うものの組み合わせは相性が悪いようにも思えますが、漢方においては2つが組み合わることで相乗効果で上下の気のめぐりを改善します(一昇一降といいます)。
上下の反対のベクトルのものを一緒につかうことは自転車のペダルに例えることができます。
ロードバイクに乗る方がつかわるもので、ペダルと靴を一緒に固定させるものにビンディングシューズがあります。
ペダルと靴を固定させることでペダルを引っ張り上げることができるようになります。
自転車をこぐとき下向きに強く足に力を入れていると思いますが、同時に反対の足でペダルを引っ張り上げることで効率的に自転車をこぐことができるようになります。
まさに下向きの力と上向きの力が合わさることで相乗効果が生まれています。
漢方の世界でも同じで、桔梗の上向きに排膿する働き、枳実の下向きに排膿する働きが合わさることで、気が上下に効率的にめぐることができるようになります。
補気
排膿散及湯には気を補う生薬も多く入っています。
生姜・大棗・甘草は気を補う、いわゆる胃薬のような組み合わせで多くの漢方薬にも入っています。
膿ができる要因の1つに気の不足があります。
気がしっかり身体を守ることができていれば膿はできにくくなります。
反対に身体が弱っていると、戦う力がなく、膿ができやすいといえます。
生姜・大棗・甘草が入ることで気を補ってくれます。
(本来の排膿散には実は卵黄が入っていました。卵黄はたんぱく質が豊富で、栄養源となり、気を補ってくれます。膿を出すために身体の内側からのサポートの意味合いとして卵黄が入っていたと考えられます。)
性質
生薬が合わせることで漢方薬としての性質がわかりやすくなります。
熱める・冷ます、上昇・下降、補う・瀉す、潤す・乾燥させるなどの性質があります。
漢方薬は西洋医学と異なり、複数の生薬から構成されています。
複数の生薬が合わさることで、お互いの良い所をさらに強化することができます(人参に黄耆を加え、補う働きを強化するなど)。
反対に生薬が合わさることで悪い部分を互いに消しあうこともできます(冷やして潤す知母と、冷やして乾かす生薬の黄柏を合わせることで、潤燥を互いに相殺し、冷やす働きだけが残るなど)。
排膿散及湯の生薬が合わさった性質を説明したいと思います。
排膿散及湯の性質をまとめると上記のグラフになります。
桔梗・枳実で排膿の瀉する方向にあるため、やや瀉のところにしていますが、実際にはそこまで瀉の働きは強くありません。
上昇・下降、潤す・乾かす、温める・冷やすの性質をみても、排膿散及湯はどちらかに偏りません。
偏っていないため、どんな体力の方でも服用できるといえます。
排膿散及湯は、体力に関わらず使えることがわかると思います。
効能効果なぜ?
薬局製剤 排膿散及湯の効能効果には
「化膿性皮膚疾患の初期又は軽いもの、歯肉炎、扁桃炎(体力に関わらず、使用できます。)」
とあります。
なぜこのような効能効果なのか考えたいと思います。
化膿性皮膚疾患の初期又は軽いもの
→排膿散及湯には桔梗・枳実が入り、排膿の妙薬です。排膿に特化した漢方薬のため、化膿性皮膚疾患の効能効果があります。化膿性皮膚疾患の初期又は軽いものとあり、部位については記載されていません。そのため顔の化膿性皮膚疾患も、陰部の化膿性皮膚疾患も、化膿性皮膚疾患に含まれます。排膿散及湯は膿出しに特化した漢方薬です。膿がもうすぐ出そうというときに排膿を促し、助けてくれます。
歯肉炎
→歯肉炎とは歯茎の炎症のことです。排膿散及湯は排膿の漢方薬であるため、歯肉炎でも腫れて、膿がでるようなタイプの歯肉炎に向いていると考えられます。
扁桃炎
→排膿散及湯の桔梗・甘草の働きが重要になります。桔梗はのどの炎症を抑える生薬です。甘草も、のどの痛みにつかう甘草湯という漢方薬があるように、のどの炎症につかいます。桔梗・甘草が合わさることで、桔梗湯というのどの炎症を抑える漢方薬ができあがります。排膿散及湯には桔梗・甘草が組み合わせが入っていることからも、扁桃炎の記載があると考えられます。
ほかの漢方薬との違い
排膿につかう漢方薬に排膿散及湯と、十味敗毒湯があります。
排膿散及湯は桔梗・枳実の量が比較的多く、排膿に特化した漢方薬ですが、ほかの働きが弱いという欠点があります。
十味敗毒湯は桔梗が入り、排膿の主薬となります。
十味敗毒湯の荊芥、桜皮、防風、甘草は解毒に働き、独活・防風・荊芥がかゆみや炎症の原因となる風熱を発散します。
十味敗毒湯の効能効果は、
「体力中等度なものの皮膚疾患で、発赤があり、ときに化膿するものの次の諸症:化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、湿疹・皮膚炎、水虫」
となり、化膿性皮膚疾患だけでなく、じんましん、湿疹・皮膚炎にもつかうことができるようになっています。
まとめ
排膿散及湯の働きについて、添付文書から解説しました。
排膿散及湯は排膿に特化し、「化膿性皮膚疾患の初期又は軽いもの、歯肉炎、扁桃炎(体力に関わらず、使用できます。)」の効能効果があります。