この記事を書いた人
・灯心堂漢方薬局 薬局長
・薬剤師歴10年以上
・店舗のLINE登録者数2000人以上
・漢方を通して、皆様が少しでも健康に過ごせる手助けをできればと思います。>>プロフィール記事はこちら
西山光です


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・灯心堂漢方薬局 薬局長
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「生理前になると、理由もなく涙が止まらなくなる」
「些細なことでイライラして、家族やパートナーに強くあたってしまう」
「自分なんていない方がいい、と思い詰めてしまう」
——それなのに、生理が始まると、うそのように元の自分に戻る。
毎月そのくり返しに、心も体も疲れきっていませんか。
生理前だけ、まるで別人のように人格が変わってしまう。それは、PMS(月経前症候群)の重い状態であるPMDD(月経前不快気分障害)かもしれません。
病院(婦人科や心療内科)では、抗うつ薬や精神安定剤をすすめられることが一般的です。ですが、「副作用が怖い」「薬に頼りたくない」「できれば体に負担の少ない方法から試したい」と迷われる方も、とても多いのではないでしょうか。
灯心堂漢方薬局にも、ご自身で調べて「PMDDかもしれない」と気づき、ご相談に来られる方が増えています。
この記事では、PMDDを漢方の視点からどう考え、どう体質を整えていくのかを、実際にご相談を受けた症例とあわせてお伝えします。今つらい思いをされている方の、一つの手がかりになればと思います。
PMDDとは、月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder)のことです。
広い意味ではPMS(月経前症候群)の一種ですが、PMSの中でも、とくに精神的な症状が強く、日常生活に支障が出るほどの状態をPMDDと呼びます。
生理のある女性の多くがPMSを経験するといわれますが、そのなかでPMDDにあたる方は全体の約3〜5%と報告されています。
| PMS(月経前症候群) | PMDD(月経前不快気分障害) | |
|---|---|---|
| 主な症状 | 心と体の両方(むくみ・頭痛・イライラなど) | 精神症状が中心(強い抑うつ・怒り・不安) |
| 重さ | 日常生活は送れることが多い | 仕事・家事・人間関係に支障が出る |
| 気分の落ち込み | あっても軽め | 「消えたい」と思うほど強いことも |
「生理前になると、気分の落ち込みが激しい」「夜になると涙が止まらない」「怒りが抑えられない」——こうした精神的なつらさが強い場合は、PMDDの可能性があります。
⚠️ 強い落ち込みや「消えてしまいたい」という気持ちがつづくときは、我慢せず、まず婦人科・心療内科などの医療機関にご相談ください。 PMDDの診断は医療機関で行われます。漢方は、その上で「体質から穏やかにしていきたい」という方の選択肢の一つです。
以下は、PMDDの特徴をやさしく整理したセルフチェックです。生理の3〜10日ほど前に強くなり、生理が始まると軽くなる——この波があるかどうかを思い出しながら、当てはまるものにチェックしてみてください。
気持ちの症状(この中で1つでも強く出ますか?)
あわせて、こんな症状はありませんか?
当てはまるものが多く、しかも生理が始まると軽くなる——そんな方は、PMDDの可能性があります。
大切なのは、これはあなたの性格が弱いからでも、わがままだからでもないということです。生理周期に伴うホルモンと、体のバランスの変化によって起きているもの。決して、あなたのせいではありません。
セルフチェックはあくまで目安です。正式な診断は医療機関で行われます。「これって私かも」と思ったら、まずはその気づきを大切にしてください。
西洋医学では、PMS・PMDDの原因は「排卵後のホルモンの乱れ」や「セロトニンなどの脳内物質の変動」と考えられています。
では、漢方ではどう考えるのでしょうか。
漢方では、生理前の精神的な不調を「血の道症(ちのみちしょう)」と呼びます。これは、月経など女性ホルモンの変動にともなって現れる、精神不安やいらだちなどの心と体の症状のことです。PMDDに見られる生理前のつらさも、この「血の道症」に含まれると考えられます。
女性の生理に深く関わるのが、漢方でいう「肝」という臓腑です。
「肝」というと肝臓を思い浮かべますが、漢方の「肝」はもっと広い意味を持ち、大きく2つの役割があります。
生理前は、この流れが崩れやすくなります。
肝が血を蓄えている → 生理で血を消耗する → 肝が疲れる → 気のめぐりをコントロールできなくなる → イライラ・不安・落ち込みが起きる
つまり漢方では、PMDDの生理前の不調を「肝の疲れ」と「気のめぐりの乱れ」として説明できるのです。
思い当たる項目があっても、悲観しないでください。体質は、漢方で少しずつ整えていけるものです。



「PMDDかもしれないけど、婦人科?それとも精神科・心療内科?どっちに行けばいいの?」
これは、とても多くの方が迷うところです。目安はこうです。
婦人科 … 生理そのものの不調や、ピルでの治療を相談したいとき。まずここから、という方が多い科です。
心療内科・精神科 … 気分の落ち込みや不安がとても強く、日常生活に大きく支障が出ているとき。抗うつ薬などでの治療が中心になります。
⚠️ 「消えてしまいたい」という気持ちが強いとき、眠れない・食べられない日がつづくときは、迷わず医療機関を受診してください。 つらさが限界に近いときは、医療の力を借りることが何より大切です。
そして、病院で診断がつかないとき、もう一つの選択肢として「漢方相談」です。
「病院で診断がつくほどではないけれど、毎月つらい」——そんな方が、漢方薬局に相談されるケースがとても増えています。
漢方は、症状を一時的に抑えるのではなく、その症状が出やすい体質そのものを整えていくアプローチです。医療機関での治療と並行して取り入れることもできます(詳しくは後述のQ&Aへ)。
灯心堂漢方薬局では、お一人おひとりのお話をじっくり伺い、体質と症状に合わせて漢方薬をお選びします。
PMDDの対処法にはいくつかあります。それぞれの特徴を、正直に整理します。
抗うつ薬(SSRIなど) … セロトニンに働きかけ、つらい精神症状をやわらげます。効果を実感する方も多い一方で、「副作用が心配」「依存したくない」「やめるときが不安」と感じる方もいます。
低用量ピル(LEP) … 排卵を止めてホルモンの変動を抑えます。第一選択とされることが多いですが、体質的に合わない方や、「ピルは飲みたくない」という方もいらっしゃいます。
命の母などの市販薬 … 手軽に試せるのが魅力です。ただし、あなたの体質(不安が強いのか、イライラが強いのか、冷えや疲れがあるのか)に、必ずしもぴったり合うとは限りません。「試したけれど、いまひとつ効かなかった」という声を、ご相談でよくお聞きします。
漢方相談(体質に合わせて選ぶ漢方) … ここが市販薬との一番の違いです。同じ「生理前のつらさ」でも、不安が強い方と、イライラが強い方とでは、選ぶ漢方薬が変わります。 あなたの体質・症状に合わせて選ぶからこそ、根本から穏やかにしていくことを目指せます。
大切なのは、「どれが正しい」ではなく、あなたに合った方法を選ぶこと。そのために、次の章では実際にどんな漢方薬を使い分けるのかをお伝えします。
PMDDの症状から考え、灯心堂では主に帰脾湯(きひとう)・抑肝散(よくかんさん)・逍遙散(しょうようさん)などを使い分けます。
不安が強いとき、漢方では「心・肝の血が不足している」と考えます。考え込みすぎたり、心労が重なったりすることで、心の血を消耗し、心が満たされず強い不安につながります。
そんな心血不足からくる不安感に、帰脾湯が適しています。
帰脾湯の効能効果:体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪いものの次の諸症:貧血、不眠症、神経症、精神不安
帰脾湯には、気を補う生薬(人参・黄耆・白朮・茯苓)と、血を養う生薬(当帰・竜眼肉・酸棗仁)がバランスよく入っています。とくに竜眼肉・酸棗仁は肝血・心血を養う働きがあり、これが精神不安をやわらげてくれます。
イライラが強いときは、漢方では「気が高ぶりやすい状態」と考えます。
そんなときに適しているのが抑肝散です。
抑肝散の効能効果:体力中等度をめやすとして、神経がたかぶり、怒りやすい、イライラなどがあるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、歯ぎしり、更年期障害、血の道症
抑肝散の主薬は釣藤鈎(ちょうとうこう)。気の高ぶりを鎮め、イライラの原因をしずめてくれます。さらに気をめぐらせる柴胡、血を養う当帰も入っており、生理前の怒りっぽさに合った処方です。
「落ち込みが強い日もあれば、イライラが爆発する日もある」——実際には、不安とイライラが同時にみられる方がとても多いです。
一見反対に思える不安とイライラですが、漢方ではどちらも「気のめぐりの悪さ」が原因と考えます。気がめぐらずふさぎ込めば落ち込みに、気が高ぶればイライラになる。根っこは同じなのです。
この滞った気をめぐらせるのが逍遙散です。
逍遙散の効能効果:体力中等度以下で、肩がこり、疲れやすく精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、不眠症、神経症、血の道症
逍遙散には、気をめぐらせる代表的な生薬柴胡と、生理で不足しがちな血を養う当帰・芍薬が入っています。気をめぐらせ、血を養い、生理前のイライラ・不安の両方に寄り添う漢方薬です。
漢方薬は、体質や症状によって使い分けます。同じPMDDでも、あなたに本当に合う一剤は人それぞれです。「自分にはどれが合うんだろう?」と思われたら、ぜひ一度ご相談ください。 あなたのお話を伺いながら、一緒に選ばせていただきます。



実際に灯心堂にご相談くださった方の例をご紹介します。
【ご相談時】 41歳・女性。20年ほど前からもともと生理前の落ち込みがあったが、10年前にお子さんが生まれてから、そのつらさが強くなった気がするとのこと。生理の10日前から気分の落ち込みがかなりつらく、生理が始まると楽になる。肩が凝りやすく、寒がり。「先月からさらにしんどくなってきた」とご来店されました。
【漢方の見立て】 出産は気血を大きく消耗します。この方は、出産をきっかけに気血が不足し、気持ちの土台がゆらいでいると考えました。そこで、気血を養い、心の土台をつくる漢方薬を14日分おすすめしました。
【経過】 14日後に来店されたとき、「今ちょうど生理前なんですけど、気持ちが全然しんどくないんです!」とうれしいお声をいただきました。効果が出るまで時間がかかると思っていましたが、この方は比較的早く実感していただけました。
【その後】 今は数か月に一度、2週間分のお薬を取りに来てくださっています。
【ご相談時】 41歳・女性。15年前から生理前の落ち込みが強く、とくに27〜33歳の頃がつらかった。生理前になると何でもネガティブに考えてしまい、倦怠感もひどく、朝仕事に行くのもだるい。生理がくると一気に楽になる。ふだんから心配性で、低血圧・冷え性。健康診断では数値に問題なし。
【漢方の見立て】 生理前に強く出る不安と倦怠感、そして冷えや低血圧から、気血の不足があると考え、気血を養う漢方薬をおすすめしました。
【経過】 まず2週間服用していただいたところ、「“今日はマシかも”という日が増えてきました。飲んで6日目くらいから調子がよくなって、生理前でもそこまでしんどくない。肩こりもよくなった気がします」とのお声。
【その後】 気血を養うには時間がかかるため、じっくり体質を整えるべく、漢方薬を継続していただいています。
こうした「毎月のつらさ」は、我慢しつづける必要のないものです。あなたの生理前も、体質に合った漢方で、少しずつ穏やかにしていける可能性があります。
A. 症状や体質によります。比較的早く実感される方もいれば、気血をしっかり養うのに数か月かかる方もいます。目安として、まずは2週間〜1か月ほど試していただき、生理周期に合わせて調整していくことが多いです。
A. ほとんどの場合、併用は可能です。お薬手帳をお持ちいただければ、飲み合わせを確認いたします。 自己判断で今の薬を減らしたりやめたりせず、まずはご相談ください。
A. 市販薬が合う方もいらっしゃいます。ただ、市販薬は「誰が飲んでも同じ処方」のため、あなたの体質(不安型・イライラ型・冷えや疲れの有無)に合っているとは限りません。「試したけれど効かなかった」という場合こそ、体質に合わせた漢方相談が力になれます。
生理前になると別人のようにつらくなる。それは、あなたが弱いからでも、努力が足りないからでもありません。体質とホルモンのバランスによって起きていることです。
そして、そのつらさは、体質を整えることで、少しずつ穏やかにしていけるものです。
「毎月のことだから」と我慢しつづけてこられた方こそ、どうか一人で抱え込まないでください。あなたの体質とお話をていねいに伺いながら、あなたに合った一剤を一緒に見つけていきます。


















