【加味帰脾湯】わかりやすい解説(かみきひとう)~不眠症、精神不安に
加味帰脾湯
加味帰脾湯の働きを添付文書の効能効果から掘り下げて、考えたいと思います。
薬局製剤 加味帰脾湯の効能効果には
「体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症」
と記載されています。
貧血から、不眠、精神不安と幅広くつかうことができます。
簡単にいえば、加味帰脾湯は気血を強く補い、気をめぐらせる働きも持つことで効果を発揮します。
添付文書の意味が分かりやすいように解説したいと思います。
ただし、商品によって効能効果は異なるので、ご購入の際は商品説明をきちんとお読みください。
構成
加味帰脾湯は人参・茯苓・竜眼肉・当帰・柴胡・甘草・大棗・生姜・白朮・酸棗仁・黄耆・遠志・山梔子・木香・牡丹皮から構成されています。
心血を養う
加味帰脾湯に特徴的な生薬は竜眼肉と酸棗仁です。
竜眼肉(りゅうがんにく)はムクロジ科リュウガンの果肉を乾燥させたもの。
薬膳ではドライフルーツとしても食べることができ、甘味の強い生薬です。
竜眼肉の強い甘味にて心の血を養い、不安に思う気持ちを和らげます。
酸棗仁(さんそうにん)はサネブトナツメのタネです。
酸棗仁は酸棗仁湯という不眠の代表的な漢方薬の主薬となる生薬でもあります。
こちらはタネなので食べることはできませんが、酸棗仁も甘味・酸味をもった生薬で心の血を養ってくれます。
酸棗仁が心の血を養い、不安な気持ちを和らげ、安眠に働きます。
竜眼肉・酸棗仁の心の血を養う生薬が加味帰脾湯が精神不安、不眠症に働くうえで最も重要です。
心腎を整える
加味帰脾湯には遠志(おんじ)という生薬も入っています。
遠志とは心腎の交流を助ける生薬です。
漢方において、心と腎のつながりは強く、腎水が心火を冷やし、心火が腎水を温めるというに相補の関係となっています。
心と腎のバランスが崩れることで、不安が生じやすくなります。
遠志が心腎を交流させることで、気持ちを落ち着かせ、安神に働きます。
気を補う
加味帰脾湯には人参・茯苓・甘草・大棗・生姜・白朮・黄耆の気を補う生薬が多く入っています。
生薬の数が多いことからわかるように、加味帰脾湯は気を補う働きがとても強いといえます。
人参は気を補う代表的な生薬であり、黄耆(おうぎ)と組むことでさらに力を発揮します。
人参と黄耆の組み合わせは参耆剤ともいわれます。
白朮・茯苓は気を補う働きと、たまりがちな水を追い出す働きがあります。
気が不足すると、水を追い出す力が弱くなり、身体に水が溜まりやすくなります。
白朮・茯苓はたまった水を追い出しつつ、気を補う働きもあります。
生姜・大棗・甘草は気を補い、胃腸の働きを整える組み合わせで、多くの漢方薬にも入っています。
気を補うことで、気血を養う土台をつくります。
気を動かす
加味帰脾湯の柴胡・木香が鬱滞している気を動かします。
柴胡(さいこ)は理気薬の代表的な生薬で、ほかにも加味逍遙散、四逆散にも入っています。
柴胡が鬱滞している気を動かし、不安な気持ちをめぐらせてくれます。
木香は良い芳香のある生薬で、鬱滞している気を動かします。
木香は日本では加味帰脾湯以外に芎帰調血飲などくらいにしか入っていませんが、木香も理気薬の代表的な生薬の1つです。
柴胡と木香が不安な気持ちの原因となる、鬱滞している気を動かします。
冷やす
加味帰脾湯には山梔子・牡丹皮の冷やす生薬が入っています。
冷やす生薬も入っているため、不安な気持ちだけでなく、イライラ、熱感がある方にも使うことができます。
構成のまとめ
加味帰脾湯には竜眼肉・酸棗仁の心の血を養う生薬が入り、精神不安・不眠症に対応しています。遠志が安神し、それらの働きを助けます。人参・黄耆などが気を強く補い、体力を補ってくれます。柴胡・木香の気を動かす生薬も入り、気の鬱滞による精神不安にも対応しています。
加味帰脾湯は気血不足が原因の精神不安、不眠症に効果を発揮します。さらに気を動かす生薬も入っていることから、気の鬱滞にも対応しています。虚を補うことがメインの働きですが、気滞にも対応しているため、精神不安・不眠症のある方に広く使いやすい漢方薬です。
悩みごとの悪循環?
加味帰脾湯の場合、心血・気が不足することで不安になりやすい状態と説明しました。
反対に、不安が強いことでも心血・気が不足しやすくなります。
過度な悩み事、心労があると、心血・気を消耗してしまいます。
その結果、心血不足、気虚となります。
心血不足、気虚になることでさらに精神不安になってしまう、悪循環になります。
この悪循環を断ち切るためにも加味帰脾湯が気血を養い、気をめぐらせます。
効能効果なぜ?
薬局製剤 加味帰脾湯の効能効果には
「体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症」
と記載されています。
なぜこのような効能効果なのか考えたいと思います。
体力中等度以下
→悩みごとを深く考え込んでしまうことで気・心血を消耗します。その結果、気が不足するため体力中程度以下となっています。気が充実し、不安な気持ちが強い場合は補う漢方薬ではなく、めぐらせる漢方薬の方が適しています。
心身が疲れ
→過度な悩みや心労があると、心血・気を消耗します。心血・気の不足を心身が疲れていると表現しています。
血色が悪く
→悩みや心労によって、心血を消耗します。血の不足は肌の状態にも影響を与え、血色が悪くなります。
ときに熱感を伴うもの
→血には冷やす働きがあり、血の不足によって熱感を生じやすくなります。またイライラなどの肝鬱があると熱感を生じます。そういったイライラによる熱感を加味帰脾湯の山梔子・牡丹皮が冷やします。
貧血
→過度な悩みで心血を消耗することで、血が不足します。血の不足を貧血と表現しています。加味帰脾湯は血の不足にも気の不足にも対応しているため、貧血によるふらつき、けん怠感、疲れやすさに適した漢方薬です。
不眠症
→心の血が不足することで、不眠症となります。漢方の睡眠のメカニズムを知るうえで、気の流れが重要になります。気は昼間は身体の周りをめぐり、夜になると気は身体の内側へ入り、血の中に落ち着くことで眠ることができます。血が不足していると、気の戻る場所がなくなり、不眠になります。加味帰脾湯は竜眼肉・酸棗仁が心の血を養い、気が戻れる場所をつくることで不眠に効果を発揮します。
精神不安、神経症
→心の血が不足することで、不安になりやすくなります。加味帰脾湯には竜眼肉・酸棗仁が入り、心の血を養うことで不安な気持ちを鎮めます。十分に血があることで、心が動揺しにくくなります。不安だけでなく、イライラなどの症状もある場合でも加味帰脾湯には柴胡・木香の気をめぐらせる生薬が入っているため、イライラにも対応できます。加味帰脾湯だけで、不安とイライラにも対応しています。
加味帰脾湯と帰脾湯の違いは?
帰脾湯に柴胡・山梔子という生薬が加わったものが加味帰脾湯です。柴胡が気をめぐらせ、山梔子がイライラによる熱を冷まします。帰脾湯の精神不安の症状に、イライラ・熱感があるときは加味帰脾湯の方が適しています。
加味帰脾湯が効かない理由は?
漢方薬は体質が合っていないと効果を発揮しません。加味帰脾湯は補う働きが強い漢方薬のため、気の鬱滞、気の高ぶりが強いとき、痰湿が溜まっている体質の場合には加味帰脾湯はあっていないと考えられます。
気の鬱滞から、気の流れが悪いことで不安になりやすい場合は、半夏厚朴湯が鬱滞している気を下に降ろしてくれます。ほかにも不安な気持ちが込みあがってくるときは、桂枝加竜骨牡蛎湯が気持ちを鎮めます。
気の高ぶりが強く、不眠になるときは抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯などもあります。いずれにせよ、不安や不眠症でも体質に合ったものを選ぶ必要があります。


まとめ
加味帰脾湯の効能効果は幅広く、どうしてこれにも効能効果があるのか、疑問に思っていた方もいると思います。
加味帰脾湯は気血を強く補い、気をめぐらせる働きもあることで「体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症」の効能効果があります。
ただし、商品によって効能効果は異なるので、ご購入の際は商品説明をきちんとお読みください。