【桂枝茯苓丸加薏苡仁】(けいしぶくりょうがんかよくいにん)のわかりやすい解説~生理不順、肩こり、にきび
桂枝茯苓丸加薏苡仁
桂枝茯苓丸加薏苡仁の働きを添付文書の効能効果から掘り下げて、考えたいと思います。
薬局製剤の桂枝茯苓丸加薏苡仁の効能効果には
「比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷え等を訴えるものの次の諸症:にきび、しみ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)、月経不順、血の道症」
と記載されています。
血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことです。
効能効果に生理不順があるのはわかりますが、にきび、手足のあれにも効くとなると想像しにくいと思います。
添付文書の意味がわかるように解説したいと思います。
ただし、商品によって効能効果は異なるので、ご購入の際は商品説明をきちんとお読みください。
構成
桂枝茯苓丸加薏苡仁は、桂皮・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬・薏苡仁から構成されています。
血をめぐらせる
桂枝茯苓丸加薏苡仁には血をめぐらせる生薬が多く入っています。
牡丹皮・桃仁・芍薬が滞っている血をめぐらせてくれます。
漢方では滞って動きの悪い血のことを瘀血(おけつ)といいます。
瘀血があることで生理不順になり、血の道症といわれる女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちの原因にもなります。
この瘀血を動かす働きが桂枝茯苓丸加薏苡仁の主な働きです。
温める
桂枝茯苓丸加薏苡仁の桂皮はシナモンのことです。
桂皮が血を温め、血のめぐりを助けてくれます。
「桂枝」茯苓丸ですが、現代では「桂皮」がつかわれています。
桂枝とはシナモンの若い枝のことです。
桂皮はシナモンの樹皮のことです。
桂枝も桂皮もほぼ同じ性質で桂皮の方が温める働きが強いためか、桂枝茯苓丸という名前ですが、桂皮をつかっています。
桂枝茯苓丸加薏苡仁に桂皮が入っている理由としては、牡丹皮が涼血の冷やす性質があるため、桂皮が入ることで涼性を相殺しているとも考えられます。
水をめぐらせる
桂枝茯苓丸加薏苡仁の茯苓が水をめぐらせる働きがあります。
茯苓は水を追い出すだけでなく、気を補う働きもあります。
湿を追い出す
桂枝茯苓丸加薏苡仁の薏苡仁(よくいにん)が湿を追い出します。
湿というのは水が煮詰まって、粘性をもったものと思ってください。
サラッとした水は茯苓が追い出しますが、ねばねばした水は薏苡仁が追い出します。
薏苡仁はイボにつかうことで有名です。
漢方ではイボは皮膚表面に湿が鬱滞している状態と考えられます。
湿と瘀血が合わさることで手足の荒れ、生理不順、にきびを悪化させる要因にもなります。
性質
生薬が合わせることで漢方薬としての性質がわかりやすくなります。
熱める・冷ます、上昇・下降、補う・瀉す、潤す・乾燥させるなどの性質があります。
漢方薬は西洋医学と異なり、複数の生薬から構成されています。
複数の生薬が合わさることで、お互いの良い所をさらに強化することができます(人参に黄耆を加え、補う働きを強化するなど)。
反対に生薬が合わさることで悪い部分を互いに消しあうこともできます(冷やして潤す知母と、冷やして乾かす生薬の黄柏を合わせることで、潤燥を互いに相殺し、冷やす働きだけが残るなど)。
桂枝茯苓丸加薏苡仁の生薬が合わさった性質を説明したいと思います。
桂枝茯苓丸加薏苡仁の性質をまとめると上記のグラフになります。
桂枝茯苓丸加薏苡仁には牡丹皮・桃仁・芍薬が入っていることから、血をめぐらせる働き(活血)は強いです。
桂枝茯苓丸は瘀血(おけつ)の漢方薬として有名ですが、血をめぐらせる働きがさらに強い漢方薬に折衝飲、芎帰調血飲第一加減があります。
折衝飲(せっしょういん)のように血をめぐらせる働きが強くなると、それだけ使う人も選ぶ必要があります。(芎帰調血飲第一加減は活血・養血のどちらも兼ねるため、つかいやすいです。)
桂枝茯苓丸は血をめぐらせる働きが強すぎないため、広く使われていると考えられます。
桂枝茯苓丸加薏苡仁は瘀血・湿を追い出す働きが強く、補う漢方薬ではなく、瀉す漢方薬となります。
桂枝茯苓丸加薏苡仁はにきびだけでなく、生理不順にもつかうことができ、下向きに余分なものを追い出します。
茯苓・薏苡仁が入っていることから、桂枝茯苓丸加薏苡仁はやや乾かす性質がありますが、そこまで強くはありません。
桂皮が入っていることからも、桂枝茯苓丸加薏苡仁は温める漢方薬といえます。
以上のことからも桂枝茯苓丸加薏苡仁は血をめぐらせる働きが強いことが特徴的だとわかります。
効能効果なぜ?
桂枝茯苓丸加薏苡仁の効能効果には、
「比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷え等を訴えるものの次の諸症:にきび、しみ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)、月経不順、血の道症」
とあります。
なぜこのような効能効果なのか、説明したいと思います。
比較的体力があり
→桂枝茯苓丸加薏苡仁は余分なものを追い出す働きが強い漢方薬です。
つまり攻めの漢方薬となります。
そのため、「比較的体力がある」という表現になっています。
体力充実という表現ではないので、身体が弱い方でなければ広くつかうことができるという意味合いでもあります。
ときに下腹部痛
→下腹部痛とは、ここでは生理痛の意味合いに近いと思います。
この枝茯苓丸加薏苡仁の効能効果には記載されていませんが、桂枝茯苓丸の効能効果には「月経痛」の記載があります。
桂枝茯苓丸加薏苡仁は下腹部痛のある体質の方につかっていただくことができます。
桂枝茯苓丸加薏苡仁の性質を考えると、下腹部痛の原因は瘀血・痰湿によって気血の流れが悪くなって生じたものです。
桂枝茯苓丸加薏苡仁が血をめぐらせるため、下腹部痛についての記載があります。
肩こり
→瘀血や湿があることで、気血のめぐりが悪くなり、肩こりになりやすくなります。桂枝茯苓丸加薏苡仁は瘀血の肩こり、湿の肩こりのどちらにも対応できます。
頭重、めまい
→瘀血や湿があることで、気血が頭まで行き渡らなくなると頭重感、めまいとなります。桂枝茯苓丸加薏苡仁は瘀血、湿を取り除き、頭重感、めまいのある体質の方につかうことができます。
のぼせて、足冷え
→瘀血、湿が気血の流れを邪魔することで、頭と足の上下での気の流れが悪くなります。気は上に上がりやすい性質があり、気の流れが悪くなると、上部で気がとどまり、のぼせとなります。上部で停滞している気が足まで降りてこないため、足は冷えを感じるようになります。桂枝茯苓丸加薏苡仁は瘀血・湿を取り除くことで、上下で気血が交流しやすいようにします。
にきび
→にきびの原因にはいくつかありますが、桂枝茯苓丸加薏苡仁は瘀血・湿によるにきびに対応しています。瘀血・湿があることで、やや黒ずんだような大人ニキビ、生理前のニキビ、芯のあるニキビ、やや湿をため込んだニキビに対応しています。熱感が強いニキビのときには別の漢方薬をつかう必要があります。
しみ
→漢方ではしみは瘀血が原因と考えられています。瘀血が原因であるため、桂枝茯苓丸加薏苡仁が瘀血を動かすため、効能効果に記載があると思います。
手足のあれ(湿疹・皮膚炎)
→湿疹・皮膚炎の要因は熱、陰虚、湿、瘀血、風など様々考えられます。桂枝茯苓丸加薏苡仁は瘀血・湿を取り除くため、瘀血・湿が原因の慢性化した湿疹・皮膚炎に対応しています。
月経不順、血の道症
→瘀血・湿が原因による生理不順に桂枝茯苓丸加薏苡仁は効能効果があります。瘀血・湿によるもののため、ときに下腹部痛のある方が向いています。血の鬱滞は生理だけでなく、精神症状にも影響を与えます。血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことです。生理前にイライラ、不安になったり、胸がはったりするようなことも血の道症に入ります。瘀血からくる更年期も血の道症といえます。
ほかの漢方薬との違い
婦人系の漢方薬で有名なものに、加味逍遙散があります。
桂枝茯苓丸と加味逍遙散もよく見る漢方薬のため、違いがわかりにくいと思います。
桂枝茯苓丸と加味逍遙散の違いは、血に働くか、気に働くかの違いです。
桂枝茯苓丸には桃仁・芍薬・牡丹皮の血のめぐりを改善する生薬が多く入っています。
とくに桃仁は活血の働きが強いです。
桂枝茯苓丸は血のめぐりに特化しています。
加味逍遙散は気に働く生薬が入っています。
柴胡・薄荷は気をめぐらせる生薬であり、とくに柴胡(さいこ)は理気薬の代表的な生薬になります。
加味逍遙散の添付文書には「体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症」のように精神的な症状について多く記載されています。
加味逍遙散には他にも、当帰・芍薬の血を養う生薬も入り、不足しがちな血も補ってくれます。
加味逍遙散は気のめぐりに重点を置いた漢方薬です。
まとめ
桂枝茯苓丸加薏苡仁の効能効果は幅広く、どうしてこれにも効能効果があるのか、疑問に思っていた方もいると思います。
桂枝茯苓丸加薏苡仁は血の鬱滞をめぐらせ、湿を追い出すことで「比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷え等を訴えるものの次の諸症:にきび、しみ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)、月経不順、血の道症」の効能効果があります。